天城トンネルは、静岡県伊豆半島の天城峠にあるトンネルで、伊豆市と賀茂郡河津町を結ぶ国道414号線の一部です。このトンネルは、2つの部分で構成されています。1905年に完成した「天城山隧道(旧天城トンネル)」と、1970年に完成した「新天城トンネル」です。
天城山隧道(あまぎさんずいどう)は、1905年(明治38年)に完成したトンネルで、全長は445.5メートルです。このトンネルは、日本で初めて石造りで建設された道路トンネルであり、現存する日本最長の石造道路トンネルでもあります。当時の総工費は10万3016円とされており、この金額は当時としては非常に高額でした。
天城山隧道は、1998年(平成10年)に「旧天城隧道」として国の登録有形文化財に登録されました。また、2001年(平成13年)には「天城山隧道」という名称で、道路トンネルとしては初めて国の重要文化財(建造物)に指定されました。この指定に伴い、登録有形文化財としての登録は抹消されました。
天城山隧道は「切り石巻き工法」という技法を用いて作られ、旧大仁町から採掘された吉田石が使用されています。アーチ部分や側面の構造すべてが切り石で作られており、その美しさと堅牢さは今も訪れる人々を魅了しています。幅は3.5メートル、側溝を含めると4.1メートルで、天井部分にはガス灯を模したナトリウムランプが設置されており、独特の雰囲気を醸し出しています。
天城山隧道は、川端康成の小説『伊豆の踊子』にも登場するゆかりの地で、映画でも度々取り上げられてきました。トンネル内はひんやりと冷たく、かつての風情がそのまま残されています。周囲には天城の豊かな原生林が広がり、新緑や紅葉の季節には多くの観光客が訪れます。また、『踊子歩道』と呼ばれるハイキングコースも整備されており、浄蓮の滝から河津七滝までの16.2キロメートルを歩くことができます。
旧天城トンネルの開通により、かつて交通の妨げとなっていた天城峠の越えは大幅に楽になり、人々や物資の往来が活発化しました。1916年(大正5年)にはバス運行も開始され、伊豆市と河津町の間の交流が一層深まりました。
旧天城トンネルの西側には、1970年に開通した新天城トンネルが並行しています。新天城トンネルは、当初は有料道路として供用されていましたが、2000年3月18日より無料開放されました。全長800メートルで、より広い交通量に対応するための近代的なトンネルです。
天城峠は、東の天城連山と西の猫越火山連峰の間に位置し、豊かな自然に恵まれています。一帯には、スギ、ヒノキ、ツガなどの森林が広がり、旧天城トンネルを中心とした「踊子歩道」沿いの景色は四季折々の美しさを見せます。また、天城峠の近くには人気の観光スポットである浄蓮の滝や河津七滝があり、ハイキングコースとしても魅力的です。
以下に天城トンネルの基本情報をまとめます。
天城トンネルは、伊豆半島の交通の歴史や観光において重要な役割を果たしています。天城山隧道は、歴史的価値のある建造物として観光客に人気で、川端康成の『伊豆の踊子』にちなんだハイキングコースを楽しむこともできます。一方、新天城トンネルは、より安全かつ快適な交通手段として地域の発展に寄与しています。どちらのトンネルも、それぞれの歴史や役割を感じることができ、訪れる人々に深い印象を残すスポットです。