刀鍛冶の心のふるさと
かつて関で活躍した刀鍛冶には、「関鍛冶七流」と呼ばれる七つの流派がありました。具体的には、善定・奈良・三阿弥・徳永・得印・良賢・室屋の各流派です。
これらの流派は、互いに技術を競い合いながらも、独自の掟を定め、協力して刀造りに励んでいました。こうした合議制による結びつきが生まれた背景には、多くの刀工が同じ大和鍛冶の出身者であり、共通の故郷を持っていたことが関係していると考えられています。
共通の信仰を象徴する存在として、正応元年(1288年)、金重と兼永が奈良の春日大明神を勧請し、関鍛冶の守護神として関春日神社を創建しました。以来、刀鍛冶たちの信仰を集め、関の刃物文化を支える神社として大切にされてきました。
関春日神社の歴史
鎌倉時代の創建
鎌倉時代、現在の奈良県にあたる大和国から、多くの鍛冶刀工が関へ移り住みました。正応元年(1288年)、大和鍛冶出身の金重と兼永が関鍛冶を代表し、奈良の春日大明神を勧請して、刀鍛冶の守護神として関春日神社を創建したと伝えられています。
創建時には、神宮寺として真言宗新長谷寺の末寺にあたる勇猛山大雄寺も設けられました。
関鍛冶の発展と神社の再建
その後、刀工の孫六兼元らが活躍したことで、関の刀鍛冶の名声は全国へと広まりました。それに伴い、神社の例祭も盛んになっていきました。
永享5年(1433年)には、初代孫六兼幸が願主となり、神社が再建されました。
明治時代以降の変遷
明治時代になると、大雄寺は廃寺となり、鐘楼を残して建物が撤去されました。
関春日神社は、明治6年(1873年)に郷社、明治40年(1907年)には神饌幣帛供進神社に指定されました。その後、昭和29年(1954年)に金幣社に指定され、現在に至っています。
例祭と伝統芸能「童子夜行」
関春日神社の例祭は「関まつり」と呼ばれ、古典芸能の「童子夜行(どうじやこう)」が能舞台で奉納されます。歴史ある祭礼を通じて、地域に受け継がれてきた伝統芸能に触れることができます。
例祭で使用される能装束類63点は、昭和31年(1956年)に重要文化財に指定されました。また、能狂言面も平成22年(2010年)に重要文化財に指定されています。
これらの文化財は、毎年10月の第2日曜日に開催される刃物まつりなどの機会に、特別に公開されます。
能舞台
関春日神社の境内には、伝統芸能を奉納する能舞台があります。室町時代に檜皮葺きの能舞台が建立され、毎年正月には神奉能が行われるなど、神事と舞台芸能が深く結びついてきました。
能舞台での奉納の始まりは、応永2年(1395年)に、兼吉清治郎が関鍛冶七流を代表して翁役を務めたことにあると伝えられています。
寛文5年(1665年)には、関の領主であった大島雲八によって能舞台が再建されました。しかし、昭和34年(1959年)の伊勢湾台風によって倒壊したため、現在の能舞台は、従来の建物を再現して建てられたものです。
王朝絵巻を思わせる伝統的な舞台では、古くから受け継がれてきた神事や芸能の歴史を感じることができます。
神宝殿
神宝殿は、境内の東北側に位置する文化財収蔵庫です。耐震性と耐火性に配慮され、温度調節機能も備えています。
昭和33年(1958年)に竣工し、重要文化財に指定されている能装束類など、貴重な文化財を保管しています。神社に伝わる歴史資料や芸能文化を、後世へと受け継ぐための重要な施設です。
関春日神社の文化財
国指定重要文化財:能装束類
関春日神社に伝わる能装束類は、室町時代末期から安土桃山時代にあたる16世紀の作品です。同時代の染織品が、一つの場所にこれほどまとまった数量で伝来している例は珍しく、日本の芸能史や染織史を研究するうえで非常に貴重な資料となっています。
重要文化財に指定されている能装束類などは、以下のとおりです。
- 摺箔(すりはく)(桐桜沢瀉文)1領
- 繍箔(ぬいはく)(菊桐山吹文)1領
- 繍箔(草花鳳凰文)1領
- 繍箔(桐松鶴文)1領
- 繍箔(桐楓鴛鴦文)1領
- 繍箔(雪持柳松皮菱文)1領
- 繍箔(雪持柳揚羽蝶文)1領
- 繍箔(松藤揚羽蝶文)2領
- 角帽子(すみぼうし)(菊桐文繍入)1頭
- 角帽子(桐杜若文繍入)1頭
- 角帽子(杜若文繍入)1頭
- 狩衣(かりぎぬ)(花鳥文銀襴)4領
- 狩衣(花唐草文銀襴)1領
- 狩衣(獣花文銀襴)1領
- 狩衣(雲文緞子)1領
- 法被(はっぴ)(花鳥文銀襴)1領
- 法被(花唐草文銀襴)1領
- 法被(雲竜文黄緞)1領
- 側次(そばつぎ)(花鳥文銀襴)2領
- 側次(花鳥文金襴)1領
- 側次(蓮唐草文緞子)2領
- 直垂(ひたたれ)(鶴亀松竹文)2組
- 直垂(松皮菱松喰鶴文)1組
- 直垂(松喰鶴亀文)1領
- 直垂(路形菊桐松喰鶴文)1領
- 直垂(色紙散松喰鶴文)1領
- 素襖(すおう)(蜻蛉文)1組
- 素襖(宝尽文)1組
- 素襖(草花色紙散文)1領
- 袴(片車輪文)1腰
- 袴(松喰鶴亀松文)1腰
- 袴(立涌桔梗文)1腰
- 無地熨斗目(むじのしめ)3領
- 長絹(ちょうけん)1領
- 水衣(みずごろも)2領
- 大口 9腰
- 腰帯残欠 4枚
- 尉髪(じょうがみ)・黒頭(くろがしら)・赤頭(あかがしら)・鬘(かずら)各1懸
- 唐櫃(からびつ)1合
- 木造能狂言面53面(附 木造古楽面8面)
これらの能装束や面は、当時の染織技術や舞台芸能の様式を知るうえで重要な文化財です。長い年月を経て伝えられてきた品々から、日本の伝統芸能の豊かな歴史をうかがうことができます。
岐阜県指定重要文化財
- 刀 銘 兼常
関鍛冶の技術と歴史を伝える刀剣も、神社ゆかりの重要な文化財として保存されています。
岐阜県指定重要無形民俗文化財
- どうじゃこう(童子夜行)
童子夜行は、関春日神社の例祭で奉納される伝統芸能です。能舞台や能装束とともに、地域に受け継がれてきた祭礼文化を象徴する存在となっています。
関鍛冶の歴史と伝統芸能に触れる神社
関春日神社は、関鍛冶の守護神として刀剣文化を見守りながら、能舞台や例祭を通じて伝統芸能を受け継いできた神社です。貴重な能装束や能狂言面、刀剣に関する文化財からは、関市のものづくりの歴史と日本の芸能文化の奥深さを感じることができます。
関市の刃物文化に関心のある方はもちろん、歴史的な神社建築や伝統芸能に興味のある方にもおすすめの場所です。