「延命楽(えんめいらく)」は、食用菊を代表する品種の一つで、山形県をはじめ、新潟県や秋田県などで栽培されています。紫がかった鮮やかな桃色の花びらが幾重にも重なり、筒状に丸みを帯びているのが特徴です。
地域によって呼び名が異なり、山形県では「もってのほか」や「もって菊」、新潟県では「思いのほか」や「かきのもと」などの名前で親しまれています。
観賞用の菊とは異なり、食用として味や香り、食感に適した品種が選ばれているため、料理にすると菊ならではの華やかな香りと、シャキシャキとした独特の歯ごたえを楽しめます。
「もってのほか」と呼ばれるユニークな名前の由来
「もってのほか」という特徴的な名前には、いくつかの由来が伝えられています。
その一つは、天皇の御紋にも使われる菊を食べるなんて「もってのほか」という意味から名付けられたという説です。一方で、あまりのおいしさから「もってのほかうまい」ことに由来するという説もあります。
上品な花姿からは想像しにくい、ユーモアのある名前も「もってのほか」の魅力の一つです。
山形に根付く食用菊の食文化
食用菊は、食べることを目的として栽培される菊です。標準和名ではショクヨウギクと呼ばれ、食菊や料理菊という呼び方もあります。
料理用としては、小輪種を花ごと利用するものや、大輪種の花びらを中心に食べるものなどがあります。一般的には、観賞用の菊よりも苦味が少なく、香りや食感のよい品種が選ばれています。
食用菊にはさまざまな色や品種があり、「延命楽」のほか、黄色い花をつける「阿房宮(あぼうきゅう)」なども代表的な品種として知られています。
古くから続く菊と食文化の歴史
菊の利用は古くから続いており、その起源については諸説あります。中国では古代から菊が親しまれ、菊茶や菊花酒などに利用されてきました。日本には奈良時代ごろに中国から伝来したとされ、平安時代の927年には「黄菊花」という記録も残されています。
日本では当初、観賞を中心に親しまれていましたが、やがて食用としても利用されるようになり、各地で郷土料理に取り入れられていきました。山形県でも食用菊を使ったお浸しや和え物、酢の物などが、地域の食文化として受け継がれています。
山形県は全国有数の食用菊の産地
山形県は食用菊の生産が盛んな地域で、特に寒河江市などで栽培されています。1970年代の減反政策をきっかけに、稲作から食用菊の栽培へ転作する農家が増え、地域を代表する特産品の一つとして発展してきました。
東北地方の冷涼な気候は食用菊の栽培に適しており、秋になると鮮やかな花を咲かせます。食卓を彩る食材であると同時に、秋の山形を象徴する農産物の一つともいえます。
代表的な品種「延命楽」と「阿房宮」
日本で広く知られている食用菊には、「延命楽(もってのほか・もって菊)」と「阿房宮」があります。地域によって名称が異なるため、同じような食用菊でも土地によって違った名前で呼ばれていることがあります。
紅もって
紅もっては、もって菊の中でも苦味が比較的少なく、食べやすいタイプです。鮮やかな色合いも料理のアクセントになります。
早生もって
早生もっては、シャキシャキとした歯ごたえと、ほどよいほろ苦さが特徴です。菊の香りと食感を楽しみたい料理に適しています。
本もって
本もっては、シャキシャキとした食感に加えて、ほのかな甘みを感じられるタイプです。お浸しや酢の物など、素材そのものを味わう料理にもよく合います。
冷涼な気候の中で育つ食用菊
食用菊は多年生の草本で、草丈は50~100cmほどになります。茎はよく枝分かれし、葉には深い切れ込みがあります。花は八重咲きのものが多く、黄色や紅紫色など、品種によってさまざまな色があります。
地下茎は晩秋の低温によってロゼット状になり、春になると新芽が伸びて茎が成長します。栽培では、株分けや挿し芽によって増やす方法が一般的です。
山形県などでは露地栽培が中心で、春に芽が出た後に株分けや挿し芽を行い、初夏ごろに定植します。そして秋になると花が咲き、食用となる花びらを収穫します。
病害や害虫などにも注意しながら育てられ、農家によって大切に管理された菊が秋の食卓に届けられます。
鮮やかな色とシャキシャキとした食感が魅力
「もってのほか」の花びらは、鮮やかな紫紅色と独特の香りが特徴です。口にするとシャキシャキとした歯ごたえがあり、ほのかな甘みと菊特有のほろ苦さが広がります。
見た目にも華やかなため、料理に添えるだけでも彩りが加わります。秋の季節感を演出できる食材として、山形の家庭料理や郷土料理に幅広く利用されています。
お浸しや酢の物など、さまざまな料理に
食用菊は、花びらを茹でてお浸し、和え物、酢の物などにするのが代表的な食べ方です。ほかにもサラダや天ぷら、吸い物などに利用され、料理によって異なる香りや食感を楽しめます。
茹でる際に少量の酢を加えると、花びらの色がより鮮やかに仕上がり、菊特有の苦味も抑えやすくなります。
菊海苔・干し菊・のし菊
花びらを湯がいたり蒸したりした後に乾燥させ、保存食として利用する方法もあります。こうして作られるものには「菊海苔」「干し菊」「のし菊」などがあり、季節を越えて菊の風味を楽しめます。
また、刺身やちらし寿司などに添えて、料理に彩りと香りを加える使い方もあります。
食用菊に含まれる栄養素
食用菊には、β-カロテン、ビタミンC、ビタミンB群、葉酸などの栄養素が含まれています。また、ミネラル類も含まれており、彩りだけでなく栄養面でも魅力のある食材です。
特に紫色の食用菊には、ポリフェノールなどの成分も含まれていることが知られています。健康への作用については研究が進められていますが、食用菊はあくまでも季節の野菜・食材の一つとして、さまざまな料理に取り入れて楽しむのがおすすめです。
秋の山形で味わいたい郷土の味
「もってのほか・延命楽」は、美しい花姿と独特の香り、シャキシャキとした食感を楽しめる、山形を代表する食用菊です。秋の訪れとともに旬を迎え、郷土料理や家庭料理の中で親しまれてきました。
花を愛でるだけでなく、その花びらを食材として味わうのは、食用菊ならではの楽しみ方です。山形を訪れた際には、秋の味覚の一つとして、ぜひ「もってのほか」の料理を味わってみたいものです。
旬の時期
10月~11月