地理的特徴
六甲山は南北に狭く、東西に長い形をしており、その長さは数十キロメートルに及びます。神戸市内からはもちろん、大阪市内を含む広範囲からもその山並みが望まれ、天然のランドマークとして親しまれています。また、六甲山の裏側に位置する地域からも、天候が良ければ遠くの都市まで見渡せるため、多くの観光客や登山者を魅了しています。
六甲山系の位置と範囲
六甲山系は南西端の明石海峡付近から北東方向に伸び、山系のほぼ中央に位置する摩耶山で方向を東寄りに変えます。その最高峰は神戸市東灘区と北区の境界に位置し、宝塚駅の西方に達します。東西方向の長さは30kmを超え、南北方向の幅はおおむね5km未満で、最深部の最高峰周辺でも10km程度です。
市域との関係
六甲山系は、神戸市と西宮市の市域を南北に分断しているため、多くの道路や鉄道が山系を横断して南北を結んでいます。また、大阪湾に接する南西端では、山陽電気鉄道本線、国道2号、JR山陽本線(JR神戸線)が海岸線に沿って併走しています。市街地は、この山系に源を発する河川によって形成された合流扇状地上に位置しており、神戸港が良港とされた理由の一つでもあります。
「山上の街」
六甲山の最高峰付近には、神戸市灘区六甲山町に「六甲有馬ロープウェー」の六甲山頂駅があり、摩耶山山頂近くの「摩耶ロープウェー 星の駅」にかけて、多くの文化施設や保養施設が集まっています。この地域は「山上の街」として知られており、冬には神戸市立六甲山小学校が市内で最も高い標高に位置する学校として、早くからストーブに点火する風景が地元ニュースでしばしば取り上げられます。
クラシックホテルと西洋館
旧六甲山ホテル旧館は、関西でも数少ないクラシックホテルとして有名で、別荘建築として複数の西洋館が現存しています。ただし、これらの多くは個人所有であるため、一般公開されていない場合がほとんどです。また、六甲ケーブル線の駅舎も開通当初の近代建築で、非常に美しいものとなっています。
宿泊施設
一般人が宿泊できる施設としては、オテル・ド・摩耶(旧国民宿舎摩耶ロッジ)、六甲スカイヴィラ、六甲山YMCA、神戸市立自然の家、オーシャンテラスあじさいなどがあります。かつては六甲山ホテルや摩耶観光ホテルなども存在しましたが、現在では企業の保養所や会員制の別荘が主流となっています。
六甲山西部
六甲山の西部には、高取山や須磨アルプスとして知られる横尾山、須磨浦山上遊園などの山々が位置しています。これらの山々は六甲山とは区別されることもありますが、全山縦走の経路であり、地理的には六甲山系に含まれています。
自然と地質
六甲山の地質は、約1億年前の中生代白亜紀に地下深くで形成された花崗岩で構成されています。この花崗岩は、百万年以上前の地殻変動によって現在の標高にまで隆起しました。六甲山の南面は急峻な地形が特徴であり、芦屋ロックガーデンや甲山などがその代表例です。
断層と地殻変動
六甲山には、複数の断層が北東から南西にかけて走っています。これらの断層は、六甲山が形成される過程で重要な役割を果たしました。阪神淡路大震災の震源となった野島断層も、この地域に属する断層帯の一部です。また、山頂部は比較的平坦であり、ゴルフ場やホテル、各種観光施設が点在しています。この平坦な地形は「隆起準平原」と呼ばれ、若い山に見られる地形です。
河川と湖沼
六甲山からは20以上の水系が南流して大阪湾に注ぎます。北部にもいくつかの水系があり、これらの河川は周囲の都市や農業に重要な水源を提供しています。代表的な湖沼としては、穂高湖や大池が挙げられ、これらは観光地としても人気です。
穂高湖と大池
穂高湖は、山頂部に位置する美しい湖で、周囲は自然豊かなハイキングコースが整備されています。また、大池は、地獄谷の一部として知られ、その迫力ある景観が訪れる人々を魅了しています。
六甲山の天然水と宮水
六甲山の豊かな水源
六甲山は花崗岩を主体とする山塊で、雨水が長い年月をかけて地層に浸透し、天然の濾過を経て地下水脈を形成しています。 その結果、ミネラル分を多く含んだ湧水が生まれ、一部は市街地で採取可能です。
布引渓流と神戸ウォーター
六甲山の水は、生田川の源流となる布引渓流にも影響を与えており、名水百選にも選定されています。 1900年(明治33年)には、神戸港に停泊する船舶に供給するために布引五本松ダムが建設されました。 その水は「赤道を越えても腐らない水」として「コウベウォーター(KOBE WATER)」と称され、世界中の船舶関係者から高く評価されました。
「六甲のおいしい水」の誕生
1983年(昭和58年)、ハウス食品は六甲山の天然水を使用した「六甲のおいしい水」を商品化し、 六甲山の水の美味しさを広く世に知らしめました。
酒造りに欠かせない宮水
六甲山から湧き出る水の中でも、西宮市から湧出する「宮水」は特に日本酒造りに適していることで知られています。 硬度が高くリンの含有量が多い一方、鉄分が少ないという特性を持ち、日本一の酒造地帯「灘五郷」の発展に寄与しました。
六甲山の歴史
六甲山の名称と由来
六甲山は古くから「むこ(武庫)」という名称で呼ばれていました。 『日本書紀』神功皇后摂政元年の条には「務古水門」という記述があり、 その語源には「畿内から見て向こう側にある山」という説など諸説あります。
山岳信仰と修行の場
六甲山は急峻な地形のため、古くから山岳修行の場として利用されていました。 768年(神護景雲2年)には、和気清麻呂が再度山の南斜面に大龍寺を開山しました。
戦乱と六甲山
平安時代末期には平清盛が福原京を造営し、その建設資材が六甲山から供給されました。 その後、源平合戦の「一ノ谷の戦い」や、南北朝時代の「摩耶山合戦」、戦国時代の「花隈城の戦い」などが起こり、 そのたびに山林が荒廃していきました。
江戸時代の六甲山
江戸時代には、山麓の人々が生活資源を求めて山中に溜池を築いたり、薪や建材を得るために木々を伐採したりしました。 これにより、六甲山の森林は大きく減少し、明治時代初期には「禿山」と呼ばれるほど荒廃していました。
明治時代以降の六甲山の復興
外国人による開発とリゾート化
明治時代に入り、神戸外国人居留地の欧米人によって六甲山の開発が進みました。 イギリス人のアーサー・グルームによって、日本最初のゴルフ場「神戸ゴルフ倶楽部」が設立されました。
森林再生と緑化事業
1895年(明治28年)の大水害を契機に、防災工事として山腹の植林が開始されました。 その後も政府の主導による緑化が進められ、現在の豊かな森林が復活しました。
六甲山の観光スポット
六甲ガーデンテラス
六甲山の人気観光スポットの一つであり、神戸の街並みや大阪湾を一望できる展望台が設置されています。 夜には美しい夜景を楽しむことができ、多くの観光客が訪れます。
六甲山牧場
自然の中で動物と触れ合える牧場で、羊や牛などの動物たちとふれあうことができます。 六甲山の恵まれた環境の中で育つ乳製品も人気です。
六甲オルゴールミュージアム
世界各国のオルゴールを展示しているミュージアムで、美しい音色とともにオルゴールの歴史を学ぶことができます。
眺望と夜景
六甲山の山頂からは、西に明石海峡大橋や淡路島、播磨平野、南に金剛山や泉州地域の海岸線、関西国際空港、神戸空港、紀伊水道の友ヶ島などが見渡せます。東側には生駒山や大阪平野、大阪国際空港(伊丹空港)、淀川、大阪市内のビル群が広がり、空気が澄んでいれば四国や中国山地、丹波高地、紀伊山地の山並みまで望むことができます。
六甲山からの夜景は特に有名で、日本三大夜景のひとつに数えられます。「100万ドルの夜景」という言葉の発祥地ともされ、1950年頃の電灯の1か月分の電気代が100万ドルに相当したことが由来です。現在では「神戸1000万ドルの夜景」と称され、多くの観光客を魅了しています。
主な展望スポット
掬星台(きくせいだい)
摩耶山の山上にある展望台で、六甲山系の中でも特に人気のある夜景スポットです。広々とした展望エリアからは、大阪湾や神戸の街並みが一望できます。
凌雲台(りょううんだい)
六甲山最高峰の西側に位置し、東南方向への開けた眺望が楽しめます。近くには六甲ガーデンテラスや六甲カンツリーハウス、六甲有馬ロープウェーの六甲山頂駅があります。
天覧台(てんらんだい)
六甲ケーブルの六甲山上駅近くにある展望台で、1981年(昭和56年)に昭和天皇が訪れたことを記念して名付けられました。
ヴィーナスブリッジ
標高約160mにある螺旋橋で、諏訪山公園の一部を構成する展望スポットです。神戸の街並みと海が一望でき、夜景が美しいことで知られています。
鉢巻展望台(はちまきてんぼうだい)
表六甲ドライブウェイの途中にある駐車場付きの展望台で、ドライブの休憩スポットとしても人気があります。
布引ハーブ園
新神戸ロープウェーの「風の丘駅」と「布引ハーブ園駅」の間に位置する植物園で、ハーブや花々を楽しみながら絶景を眺めることができます。
六甲山の温泉
有馬温泉
神戸市北区にある、日本三名泉のひとつに数えられる名湯です。金泉(含鉄強塩泉)と銀泉(炭酸泉)の2種類の泉質が特徴で、古くから多くの旅人に愛されています。
武田尾温泉
宝塚市と西宮市の境界に位置する温泉で、武庫川沿いの渓谷美とともに楽しむことができます。自然に囲まれた静かな環境で、ゆったりとした時間を過ごせます。
その他の温泉
六甲山系を源とする温泉施設として、灘区の「灘温泉(六甲道店)」や、西宮市の「甲子園浜田温泉」、兵庫区の「湊山温泉」などがあります。これらの温泉は市街地に位置し、気軽に立ち寄ることができます。
交通アクセス
鉄道
六甲山へのアクセスは以下の鉄道が利用できます。
- 神戸市営地下鉄西神・山手線
- JR神戸線・福知山線
- 阪急神戸本線・今津線・甲陽線
- 神戸電鉄有馬線
- 六甲ケーブル・六甲有馬ロープウェー
- 摩耶ケーブル・摩耶ロープウェー
- 山陽新幹線(新神戸駅)・神戸布引ロープウェー
- 山陽電気鉄道本線・須磨浦ロープウェイ
バス
六甲山周辺を巡るバスも充実しています。
- 神戸市営バス
- 神姫バス
- 六甲山上循環バス
- 六甲摩耶スカイシャトルバス
- 阪急バス
道路
六甲山へは自動車でもアクセス可能で、ドライブを楽しみながら景色を満喫できます。
- 兵庫県道16号明石神戸宝塚線(サンセットドライブウェイ・東六甲ドライブウェイ)
- 兵庫県道51号宝塚唐櫃線(湯山街道)
- 兵庫県道82号大沢西宮線
- 芦有ドライブウェイ(芦屋市と有馬を結ぶ有料道路)
- 表六甲ドライブウェイ・裏六甲ドライブウェイ
- 六甲山トンネル(有料)
- 新神戸トンネル有料道路
- 阪神高速7号北神戸線・31号神戸山手線
- 第二神明道路
六甲山の魅力を満喫しよう
六甲山は、美しい自然環境と豊かな水資源を誇る山であり、歴史的にも重要な役割を果たしてきました。 近代以降の開発によって観光地としても発展し、現在では多くの観光客に親しまれています。 四季折々の魅力を感じながら、六甲山の自然と歴史をぜひ体験してみてください。