灯台の建築と設計
尻屋埼灯台は、明治9年(1876年)に点灯した東北地方初の洋式灯台です。設計を手掛けたのは「日本の灯台の父」と呼ばれるリチャード・ヘンリー・ブラントンで、二重のレンガ壁による複層構造を採用しています。高さは約33m、レンガ造りとしては日本一の規模を誇り、今もその姿は変わらず海の安全を見守り続けています。
文化的価値
尻屋埼灯台は、その歴史と構造の独自性から「近代化産業遺産」や「土木学会選奨土木遺産」にも認定されています。さらに「恋する灯台」にも選ばれ、ロマンチックな観光地としても人気を高めています。
灯台の歴史
津軽海峡と太平洋が交わる尻屋崎沖は、濃い霧と岩礁が多く、古来より難破岬として恐れられてきました。江戸時代には危険を避けるため、多くの船が日本海を経由する西廻り航路を利用していました。明治時代に入り国際貿易が盛んになると、この地域での航行安全が不可欠となり、灯台建設が進められました。
主な出来事
1876年の点灯以来、霧鐘や霧笛の設置、日本初の自家発電導入など多くの新しい試みが行われました。第二次世界大戦中には米軍の攻撃を受けて破壊されましたが、1946年には「まぼろしの灯台」と呼ばれる不思議な光が目撃され、漁船を遭難から救ったと伝えられています。この現象は今も地元で語り継がれています。
寒立馬と尻屋崎の自然
尻屋崎周辺では、寒立馬と呼ばれる馬が放牧されています。寒冷地での厳しい自然環境にも耐え、持久力と強さを兼ね備えた馬で、かつては農作業や軍用馬として活躍しました。現在は保護活動が行われ、30頭ほどが生息しています。特に春から初夏にかけては出産シーズンとなり、可愛らしい仔馬に出会える可能性もあります。
放牧と四季の風景
寒立馬は一年を通じて自然の中で暮らし、訪れる人々はその逞しい姿を間近に見ることができます。冬季(1月~3月)は「アタカ」と呼ばれる放牧地に移動しますが、尻屋崎が開放される季節には草原の中でのびのびと暮らす姿が広がります。
一般公開と観光体験
尻屋埼灯台は、毎年4月下旬から11月上旬までの期間に一般公開されています。参観者は寄付金として中学生以上300円を支払い、灯台の内部へ入り、128段の階段を登ることができます。最上部から望む津軽海峡と太平洋の大パノラマは圧巻で、特に夕日に染まる海の美しさは格別です。
アクセス
むつ市中心部から県道6号を経由し、東通村道尻屋灯台線を進むと到着します。また旧むつバスターミナルからデマンドタクシーで約75分のアクセスも可能です。ただし冬季はゲートが閉鎖されるため、訪問の際は開放期間を確認する必要があります。
尻屋崎の地質と景観
尻屋崎は「尻屋崎層群」と呼ばれる地質が分布し、スレートや石灰岩、緑色岩など多様な岩石が混在しています。岩場が遠くまで広がり、階段状に深く沈む独特の地形は、荒々しい自然の造形美を感じさせます。
まとめ
尻屋埼灯台と尻屋崎は、海の安全を守り続けてきた歴史的建造物であり、また自然と共存する寒立馬の姿が楽しめる貴重な観光地です。訪れる人は、雄大な海の景色、歴史ある灯台の内部見学、そして寒立馬が暮らす草原の風景を同時に体験することができます。最果ての地ならではの静けさと力強さを感じながら、ゆったりと時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。