龕附天正金鉱は、静岡県伊豆市土肥に位置する歴史ある手掘りの金鉱です。天正年間(1573年〜1592年)に掘られた坑道であり、伊豆最古級の手掘り坑道として知られています。坑道跡は現在も当時の姿をほぼそのまま保ち、観光客が見学できるスポットとして公開されています。
龕附天正金鉱の開発は1577年(天正5年)に始まりました。当初は代官の彦坂元成によって運営されていましたが、その後、江戸幕府の金山奉行である大久保長安の支配下に置かれました。1606年(慶長11年)には、金鉱としての最盛期を迎えたとされています。
坑道の入り口には大きな山柿の木があったことから「柿木間歩」と呼ばれていました。全長は約100メートル、最奥部までは約60メートルです。坑道内は松明を用いて採掘が行われており、換気を目的とした逆さ階段などの工夫が見られます。特に注目されるのは、坑道の最奥部に祀られた「龕(がん)」です。
龕とは、女陰形の金脈を象った彫刻のことです。坑夫たちが最奥部で大量の金銀を含む鉱脈を発見した際に、これ以上掘り進むと祟りがあると恐れ、山の神として龕を祀ったとされています。このような形の信仰対象が坑道内に祀られているのは全国的にも珍しく、龕附天正金鉱の大きな特徴となっています。
考古学者の軽部慈恩により「龕附天正金鉱」と命名されました。また、日本大学の発掘調査では金の精錬炉跡も発見されており、産業史的にも重要な遺跡とされています。伊豆市からは市指定史跡に指定されています。
龕附天正金鉱は、土肥温泉の温泉街に位置し、湯の川バス停から徒歩約2分、駿河湾フェリー乗り場(土肥港)から徒歩約5分の場所にあります。国道136号線沿いに案内看板があり、広い無料駐車場も完備されています。駐車場奥の茶色の建物が受付となっています。
見学料金には、案内人による説明と金銀鉱石の体験掘りが含まれています。案内人は、坑道の歴史や当時の逸話を丁寧に説明してくれるため、より深い理解を得られます。坑道内は狭く探検気分を味わえるのも魅力の一つです。
龕附天正金鉱は、単なる観光スポットにとどまらず、歴史的・文化的価値を持つ重要な遺産です。採掘技術や当時の産業構造を知る上で欠かせない場所であり、地質学や考古学の観点からも貴重な研究対象となっています。
龕附天正金鉱は、歴史と文化が交差する貴重な観光地です。手掘り坑道の見学や体験を通じて、江戸時代の採掘技術や信仰文化を学ぶことができます。ぜひ、伊豆市土肥を訪れた際には足を運び、歴史の息吹を感じてみてください。