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浅虫温泉

(あさむし おんせん)

浅虫温泉は、青森県青森市浅虫に位置する東北を代表する温泉地です。かつて「東北の熱海」「青森の奥座敷」と呼ばれ、温泉だけでなく海水浴、スキー、水族館、遊園地など多彩なレジャー施設と組み合わせて楽しめる観光地として発展してきました。陸奥湾に突き出した夏泊半島の付け根にあり、周囲は浅虫夏泊県立自然公園の一角を形成し、自然景観も豊かです。

泉質と効能

浅虫温泉の泉質は、かつて「含石膏弱食塩泉」と呼ばれ、現在はナトリウム・カルシウム-硫酸塩-塩化物泉と表記されています。平均源泉温度は約63℃で、神経痛やリューマチ、婦人病などに効能があるとされています。
かつては30℃から78℃の温度で複数の源泉から湧出していましたが、乱掘により湧出量が減少し泉質も変化しました。そのため1968年に源泉を一元管理する方式を導入し、現在では源泉を汲み上げ46℃に調整した後、各宿泊施設や家庭に配湯されています。これは当時の日本では珍しい試みであり、温泉資源の保全の先駆け的な取り組みとなりました。

浅虫温泉の歴史

開湯伝説と名称の由来

浅虫温泉には様々な開湯伝説が残されています。平安時代の頃、法然が陸奥を訪れた際に、傷ついたシカが湯に浸かって傷を癒しているのを見て温泉を発見したという伝承があり、さらに古くは円仁(慈覚大師)が見つけたという異伝もあります。いずれの伝承でも、地元住民に入浴の効能を伝えたのは仏僧だったとされています。
また、「浅虫」という地名は、かつて「麻蒸」と表記されていたことに由来します。これは、源泉を利用して麻を蒸し、織物の材料としていたことによると伝えられます。しかし村で火災が頻発したため、「蒸」の字を忌避し「浅虫」と改められました。さらにアイヌ語由来とする説もあり、語源についても多様な解釈が存在しています。

江戸時代から近世

江戸時代の史料には「麻蒸湯」として記録され、温泉地としての存在が広く知られるようになりました。弘前藩の御休所としても利用され、藩主が巡察の際に立ち寄ったとされています。当時の本陣が現在の「柳の湯」とされ、藩主の入浴に供された歴史を今に伝えています。
また、江戸期の紀行家菅江真澄や、幕府巡見使に随行した地理学者古川古松軒も浅虫温泉を訪れ、その湯の豊かさを記録に残しています。

明治時代の発展

明治時代初期、浅虫温泉はまだ素朴な湯治場にすぎず、宿もわずかで交通も不便でした。特に善知鳥崎の断崖は大きな難所で、人馬の通行に困難を極めていました。しかし1876年、明治天皇が北海道巡幸の際に立ち寄ることとなり、断崖の拡幅工事が行われ交通の便が改善されました。
1891年には東北本線が開通し、浅虫駅(現在の浅虫温泉駅)が開業。これを契機に観光客が増え、温泉地として本格的に発展しました。
日露戦争の傷痍軍人や八甲田雪中行軍遭難事件の生存者が療養に訪れたことで、その効能が広く知られるようになり、全国的に浅虫温泉の名が広まりました。

大正から昭和初期

大正時代には観光誘致の取り組みが盛んになり、「浅虫八景」の選定や宣伝活動が行われました。1924年には浅虫水族館が開設され、当時を代表する水族館として人気を集めました。翌年には馬場山に劇場や食堂を備えた「清遊館」が開業し、浅虫温泉は温泉だけでなく歓楽街としても発展しました。
昭和に入ると四季を通じて楽しめる観光地として、潮干狩り、海水浴、花火大会、スキーなどのレジャーが整い、多くの観光客を魅了しました。

文化人との関わり

浅虫温泉は多くの文化人に愛された温泉地でもあります。俳人高浜虚子は「百尺の裸岩あり夏の海」と詠み、秋元不死男は青森の林檎を題材に句を残しました。津軽出身の太宰治も家族と共に湯治で訪れ、その体験を『津軽』などの作品に描いています。
また、青森出身の版画家棟方志功は善知鳥崎を題材にした作品で帝展特選を受賞するなど、浅虫の風景は芸術作品の中にも息づいています。

名物と文化

浅虫温泉の代表的な土産菓子にくじら餅があります。これは日露戦争期に生まれた保存性の高い餅菓子で、軍人の土産としても広まりました。現在では温泉の名物菓子として観光客に親しまれています。

「東北の熱海」と呼ばれた理由

浅虫温泉は海と山に囲まれた地形で、夏には海水浴や島々の景観、冬にはスキーが楽しめるなど、一年を通じて観光資源に恵まれています。この地形や賑わいが静岡県の熱海温泉に似ていることから、明治時代以降「東北の熱海」と称されるようになりました。昭和にかけて歓楽地としても発展した点も、熱海と共通しているといえます。

現代の浅虫温泉

現在の浅虫温泉は、海を望む高層旅館や多彩な宿泊施設が立ち並び、伝統と現代的な快適さが融合した温泉街へと発展しています。温泉街には飲泉所足湯も整備され、気軽に温泉の効能を楽しむことができます。さらに、浅虫水族館ねぶた祭関連イベント、海岸の夕景なども観光客に人気です。
自然豊かな環境と歴史、文化が融合した浅虫温泉は、今も昔も多くの人々に愛され続ける「青森の奥座敷」といえるでしょう。

まとめ

浅虫温泉は、豊かな泉質と効能に恵まれた温泉地でありながら、歴史的背景や文化人との交流、自然景観と多彩なレジャー施設が揃った観光拠点です。「東北の熱海」と称される華やかな一面を持ちながらも、古くからの湯治文化や地域の暮らしを今に伝えています。訪れるたびに歴史と自然、文化に触れることができる浅虫温泉で、心身ともに癒されるひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。

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名称
浅虫温泉
(あさむし おんせん)
Asamushi Onsen
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