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熊野古道 中辺路「小雲取越」

(こぐもとりごえ)

小雲取越は、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」を構成する熊野古道の一つで、新宮市熊野川町の小口から田辺市本宮町の請川までを結ぶ歴史ある山越えの道です。熊野那智大社と熊野本宮大社を結ぶ「雲取越え」の後半にあたり、前半の大雲取越に比べると比較的穏やかな道のりが続くことから、現在では熊野古道のトレッキングコースとして多くの人に親しまれています。

熊野三山を結んだ歴史ある参詣道

熊野古道中辺路を歩いて熊野本宮大社にたどり着いた巡礼者は、熊野川を下って熊野速玉大社へ向かい、さらに那智を目指して熊野那智大社や那智山青岸渡寺を参拝しました。熊野三山を巡る旅を終えた人々が、那智から再び熊野本宮大社へ戻るために越えた山道が、「大雲取越」と「小雲取越」です。

熊野那智大社から小口までを結ぶ大雲取越は、標高の高い峠をいくつも越える険しい山道として知られています。一方、小口から請川へ向かう小雲取越は、雲取越えの後半にあたり、全長約13kmの山道を歩きます。小雲取越も決して平坦な道ではありませんが、大雲取越に比べると急激なアップダウンが少なく、森林の中を歩く比較的穏やかなルートとして人気があります。

「雲取」という名前には、山深い熊野の山々を越え、まるで雲の中を歩いているような旅路の印象が重ねられているともいわれます。現在も古道を歩けば、深い山々に包まれた熊野ならではの雄大な自然と、長い年月を経て受け継がれてきた参詣道の歴史を感じることができます。

小口から始まる小雲取越の旅

小雲取越の出発地となる小口は、大雲取越と小雲取越の中継地として古くから重要な役割を果たしてきた地域です。かつては大雲取越を越えてきた旅人がここで宿泊し、翌日に小雲取越を歩いて熊野本宮を目指しました。

現在でも、大雲取越と小雲取越を2日間に分けて歩く旅は、熊野古道をじっくり楽しむ代表的なプランの一つです。熊野那智大社周辺から大雲取越を歩いて小口で一泊し、翌日に小雲取越を越えて熊野本宮大社へ向かうことで、古の巡礼者たちがたどった道のりをより深く体験できます。

小和瀬の渡し場跡

小口から小雲取越へ向かう途中には、小和瀬(こわぜ)の渡し場跡があります。かつてここには赤木川を渡る渡し船があり、多くの参詣者が船を利用して対岸へ渡りました。現在は橋が架けられていますが、昔の旅人たちが山道へ向かう前に川を渡った歴史を感じられる場所です。

小和瀬から小雲取越の本格的な山道が始まります。コースの序盤は小雲取越の中でも特に厳しい登りが続く区間で、桜茶屋跡まで標高差約350mを上ります。比較的歩きやすいといわれる小雲取越ですが、序盤の急な登りは十分な注意が必要です。

桜茶屋跡と桜峠

急な登りの途中には、かつて旅人を迎えた桜茶屋跡があります。その名は、茶屋の庭先にあった大きな桜の木に由来すると伝えられています。昔は見晴らしの良いこの場所から白装束の巡礼者の姿を見つけると、茶屋の主人が餅をつき、お茶を沸かしてもてなしたともいわれています。

山深い熊野では、茶屋は単なる休憩所ではありませんでした。険しい道を越えてきた旅人が疲れを癒やし、食事や飲み物を得るための大切な場所でもありました。現在は建物こそ残っていませんが、茶屋跡を訪れると、かつて多くの人々が行き交った古道のにぎわいを想像することができます。

桜茶屋跡を過ぎてさらに進むと、標高約466mの桜峠に到着します。ここは小雲取越の最高地点にあたり、峠を越えると、道は比較的歩きやすい尾根道へと変わっていきます。

熊野の自然を歩く尾根道

桜峠から先は、深い森林に包まれた熊野らしい山道が続きます。ウバメガシやカシ、ナラ、サクラなどの樹木が生育する森には、古い熊野の自然を思わせる風景が残されています。また、スギやヒノキの林も広がり、木々の間を抜ける静かな山歩きを楽しめます。

途中には石堂茶屋跡があり、江戸時代には茶屋が営業していたと伝えられています。近くで砥石となる石が採れたことから、「石砥茶屋」とも呼ばれていたといわれます。現在は東屋が設けられており、休憩場所として利用することができます。

さらに進むと、静かに佇む賽の河原地蔵に出会います。深い森の中に残る石仏は、古道を行き交った旅人たちの安全を見守ってきた存在です。熊野古道には、このような地蔵や石碑、茶屋跡などが各地に残されており、自然の中を歩きながら信仰と旅の歴史に触れることができます。

小雲取越一番の絶景「百間ぐら」

小雲取越を代表する名所が、コースの中ほどにある百間ぐら(ひゃっけんぐら)です。深い森の中を歩いてきた先で突然視界が開け、熊野の山々が果てしなく重なり合う雄大な景色を望むことができます。

「ぐら」は、この地域で高い崖を意味する言葉とされています。百間ぐらは高い崖の上に位置し、紀伊半島の奥深い山々を一望できる小雲取越随一の展望地です。北西には果無山脈の稜線が広がり、南西には紀南地方の最高峰である大塔山を中心とした山々を望むことができます。

熊野の山々が幾重にも重なり、遠くまで続く景色は、まさに「熊野三千六百峰」とも表現される雄大な風景です。百間ぐらにはお地蔵さんが佇み、山並みを見守るような姿も印象的です。

特に夕暮れ時には、山々が夕日に染まり、幻想的な景色が広がります。小雲取越を歩く際には、ぜひ時間に余裕を持って立ち寄り、熊野の奥深い山々をゆっくり眺めたい場所です。

伊勢路へとつながる万才峠

百間ぐらからさらに進むと、万才峠の分岐があります。この周辺は熊野古道伊勢路へとつながる道との関わりも深く、伊勢方面から熊野を目指した旅人たちにとっても重要な場所でした。

熊野古道は一本の道ではなく、紀伊半島の各地から熊野三山を目指す数多くの道が結びついています。中辺路、伊勢路、小辺路、大辺路など、それぞれの地域から熊野へ向かう参詣道が整備され、多くの人々が時代を超えて熊野を訪れました。

松畑茶屋跡

万才峠の分岐を過ぎると、松畑茶屋跡があります。江戸時代の参詣記には、かつてこの場所に4、5軒の茶屋があったことが記されており、伊勢方面からの旅人も利用するほど人々でにぎわっていたと伝えられています。

現在でも高い石積みや屋敷跡が残り、山深い場所にありながら、かつてここに旅人を迎える集落が存在していたことを感じさせます。熊野古道を歩く魅力の一つは、このような遺構を通して、昔の人々の旅を身近に想像できることにあります。

請川から熊野本宮大社へ

松畑茶屋跡を過ぎると、道は次第に下りとなり、熊野川と大塔川の合流点に近い請川へと向かいます。長い山道を歩き終えて集落へ出ると、熊野本宮大社が近づいてきたことを実感できるでしょう。

請川から熊野本宮大社までは約3kmほどで、徒歩または路線バスで移動することができます。長い小雲取越を歩き終えた後に熊野本宮大社へ参拝すれば、熊野の山々を越えてきた古の巡礼者たちと同じように、旅の達成感を味わうことができるでしょう。

熊野本宮周辺には湯の峰温泉、川湯温泉、渡瀬温泉からなる熊野本宮温泉郷があり、古道歩きの後に温泉で疲れを癒やすのもおすすめです。山道を歩いた後に温泉へ浸かる時間は、熊野を旅する大きな楽しみの一つとなります。

約13kmの山越えを楽しむ

小雲取越は、歩行距離約13km、標準歩行時間はおよそ4時間30分、休憩などを含めた所要時間は約5時間30分とされています。大雲取越よりも比較的穏やかなコースですが、全行程の多くは山道です。特に小和瀬から桜峠にかけては急な登りが続くため、体力に合わせた計画を立てることが大切です。

また、古道上には飲食店や売店などがほとんどありません。水場も限られているため、飲み物や昼食、行動食などは事前に十分準備しておきましょう。雨具や歩きやすい登山靴なども必要です。山の天候は変わりやすいため、出発前には天気予報やコースの最新情報を確認することをおすすめします。

大雲取越と歩く熊野古道の旅

小雲取越だけを歩くのも魅力的ですが、より本格的に雲取越えの歴史を体験したい場合は、大雲取越と組み合わせた2日間の旅がおすすめです。

熊野那智大社周辺を出発して、1日目に険しい大雲取越を越えて小口に宿泊し、2日目に小雲取越を歩いて熊野本宮大社を目指します。大雲取越の厳しい山道と、小雲取越の比較的穏やかな尾根道を続けて歩くことで、熊野古道の多彩な表情を楽しむことができます。

熊野那智大社、熊野速玉大社、熊野本宮大社を巡る熊野三山の信仰とともに発展してきた雲取越えは、長い歴史を持つ参詣道です。中世には修行者や巡礼者が歩き、室町時代以降には西国三十三所巡礼の人々も多く往来しました。現在は世界遺産を歩くトレッキングコースとして親しまれていますが、その道には今も昔の旅人たちの足跡が息づいています。

世界遺産の森を歩く小雲取越

小雲取越は、2004年に世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成資産の一部として登録されました。熊野古道は単なる山道ではなく、千年以上にわたって人々が祈りを捧げ、熊野の神々を目指して歩いた信仰の道です。

杉やヒノキに囲まれた静かな道、かつて旅人を迎えた茶屋跡、森の中に佇む石仏、そして百間ぐらから眺める果てしなく続く熊野の山々。小雲取越には、熊野古道ならではの魅力が凝縮されています。

大雲取越よりも比較的歩きやすい一方で、本格的な山歩きと歴史探訪を楽しめる小雲取越。古の巡礼者たちが雲の中を越えるように歩いた熊野の山道をたどりながら、世界遺産の自然と歴史、そして雄大な山々の景色を満喫してみてはいかがでしょうか。

Information

名称
熊野古道 中辺路「小雲取越」
(こぐもとりごえ)
Kumano Kodo Nakahechi Route: "Kogumotori-goe"
エリア
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