八戸市美術館は、青森県八戸市にある市立美術館です。1986年(昭和61年)に開館し、青森県内で初めて博物館法に基づいて設立された美術館として知られています。2021年(令和3年)には新しい建築で再開館し、現代的な施設として多くの人々に親しまれています。
開館当初の八戸市美術館は、八戸市中心街の番町にある旧八戸税務署を改修して利用していました。2017年までその建物が使われていましたが、老朽化や展示室不足の課題があり、新しい美術館建設の声が市民からも高まりました。その結果、青森銀行八戸支店の整備と合わせて敷地を拡大し、2021年11月3日に新しい施設で再スタートを切りました。
この美術館は、県内5館で構成される「AOMORI GOKAN」のひとつでもあり、青森の芸術文化のネットワークを担っています。
八戸市美術館は当初、八戸市博物館の分館として設置されました。最初のコレクションは、宇山博明《是川作品群》や、小山田孝の寄贈による陶磁器・渡辺貞一の油彩画などから始まりました。さらに「今渕コレクション」なども加わり、徐々に収蔵品が充実していきました。
1980年代後半には作品数が限られていたため、展示に変化が少ないことが指摘され、本格的な収集活動が開始されました。その後は郷土作家を中心に多くの作品が寄贈や購入により加わり、平成30年度時点で2,800点以上を収蔵しています。
特徴的な収蔵品として教育版画コレクションがあります。これは、坂本小九郎が指導した1950〜70年代の教育版画約540点で、その中にはスタジオジブリ映画「魔女の宅急便」に登場する絵のモデルとなった作品も含まれています。こうした独自性のあるコレクションは、美術館の個性を形づくっています。
2011年に「八戸ポータルミュージアム はっち」が開館し、八戸市では「アートのまちづくり」が本格的に推進されました。八戸市美術館もその一翼を担うこととなり、教育委員会からまちづくり文化観光部の所管へ移り、より地域に開かれた役割を担いました。
老朽化した旧施設の課題を解決するため、2016年から新美術館整備が本格化。市民も参加できる公開プレゼンテーションを経て、西澤徹夫建築事務所・タカバンスタジオ設計共同体が設計を担当しました。市民の意見を取り入れながら進められた新美術館は、2021年に華やかに再開館しました。
新しい八戸市美術館は、「種を蒔き、人を育み、100年後の八戸を創造する美術館~出会いと学びのアートファーム~」をコンセプトに掲げています。アートとの出会いを通じて人を育み、その成長がまちを豊かにしていくという考えのもと、多様な活動が展開されています。
展覧会の開催はもちろん、市民や団体と連携したプロジェクト、教育機関との協力による「学校連携」など、幅広い活動が行われています。美術館活動に関わる市民は「アートファーマー」と呼ばれ、共に美術館を育てていく存在として位置づけられています。
新美術館は総工費約32億円をかけて建設され、鉄骨造3階建て、延べ床面積約4,590㎡の規模を誇ります。設計は西澤徹夫氏らによるもので、2022年度グッドデザイン賞ベスト100や第43回東北建築賞「作品賞」を受賞しました。
来館者が自由に利用できる大空間「ジャイアントルーム」は、持ち込み飲食やコンセント利用も可能で、待ち合わせや学習スペースとしても親しまれています。ここでは展示やワークショップ、市民活動など多様な用途に対応できます。
八戸市美術館は「展覧会」と「プロジェクト」を二本柱に活動を行っています。特に「コレクションラボ」は無料で観覧できる展示として人気があり、市民に親しまれています。また、アートを通じた交流や学びの場を創出するため、地域の学校や大学、企業とも連携したプログラムが実施されています。
八戸市美術館は、地域文化を発信する拠点として、美術作品の展示にとどまらず、市民と共に新たな価値を創造する場へと進化しました。アートを通して出会い、学び、育むというビジョンのもと、子どもから大人まで誰もが気軽に訪れられる場所です。歴史的なコレクションと革新的な活動の両方を楽しめる美術館は、観光や学びの場としてぜひ訪れたいスポットです。