奥只見ダムは、福島県南会津郡檜枝岐村と新潟県魚沼市にまたがり、一級河川・阿賀野川水系只見川の最上流部に建設された巨大ダムです。電源開発株式会社(J-POWER)が管理する発電専用の重力式コンクリートダムであり、堤高157mという日本屈指の高さを誇ります。その高さは日本第5位(2009年時点)、そして重力式コンクリートダムとしては国内一とされる圧倒的な存在です。
ダムの完成によって生まれた人造湖が奥只見湖(銀山湖)です。総貯水容量は6億1,000万立方メートルと国内第2位を誇り、湛水面積は1,150ヘクタールに及ぶ巨大湖で、日本紅葉の名所100選にも選ばれています。2023年には「只見川ダム施設群」として土木学会選奨土木遺産にも認定され、産業遺産としての価値も評価されています。
奥只見ダムと一体となって稼働しているのが奥只見発電所です。完成当初は36万kWの認可出力を誇り、田子倉発電所に次ぐ全国第2位の水力発電所でした。その後1999年から2003年にかけて増設工事が行われ、現在では56万kWという国内最大規模の一般水力発電所となっています。発電に使用される水力は自然の力を生かしたクリーンエネルギーであり、首都圏や東北地方の電力需要を支える重要な役割を担っています。
ダム近傍には「奥只見電力館」が整備されており、発電の仕組みや歴史を学べるほか、実際に使用された水車部品なども展示されています。入場は無料で、観光と学習を兼ねた人気スポットです。
奥只見湖は、かつて銀の採掘地だったことから「銀山湖」とも呼ばれています。その美しい景観は文学作品や釣り文化にも影響を与えてきました。三島由紀夫の小説『沈める滝』や、釣り師としても有名な作家・開高健が愛した湖としても知られています。開高はこの湖を「水は水の味がし、木は木であり、雨は雨であった」と称し、自然そのものと調和する姿を絶賛しました。
また、1970年代以降には漁業資源の保護活動も進められ、「奥只見の魚を育てる会」が設立されました。その結果、イワナやヤマメなどの天然魚が豊かに育つ湖となり、現在では釣り人にとって憧れのフィールドとなっています。
秋にはブナの原生林が黄金色に輝き、カエデ類の鮮やかな赤や朱色と共に湖面に映り込む姿は圧巻です。日本紅葉の名所100選にも数えられ、毎年多くの観光客が訪れます。遊覧船に乗れば、湖を取り囲む四季折々の風景を存分に楽しむことができます。
奥只見湖では、ダムサイトと銀山平、尾瀬口を結ぶ遊覧船が運航されています。春の新緑や秋の紅葉シーズンには特に多くの観光客で賑わい、年間10万人以上が利用します。また、湖面を活かしたカヌー体験も人気で、原生林や残雪の山々を背景にした自然体験は格別です。
ダム周辺には奥只見丸山スキー場があり、春スキーの名所として知られています。豪雪地帯ゆえ冬季は閉鎖される珍しいスキー場ですが、4月下旬から6月初旬にかけてスキーを楽しむことができます。夏にはスポーツ合宿や避暑地としても利用され、多様な楽しみ方があります。
奥只見湖は大型イワナをはじめ、ヤマメやサクラマス、ワカサギなどが生息する釣りの聖地でもあります。特に60cmを超える大イワナが釣れることで有名で、釣り愛好家が全国から訪れます。ボート釣りや渓流釣りを通じ、自然と一体となる体験が可能です。
奥只見ダムへは奥只見シルバーラインと呼ばれる道路を利用するのが一般的です。新潟県道50号小出奥只見線として管理されており、全長22kmのうち18kmがトンネルというユニークな道路です。冬季は閉鎖されますが、春から秋にかけて多くの観光客が利用します。
シルバーラインを抜けた先には銀山平温泉があり、登山客や釣り人に人気の宿泊地です。近年は日帰り温泉施設やキャンプ場も整備され、自然の中で癒やしのひとときを過ごすことができます。
自動車の場合:
公共交通機関の場合:
JR浦佐駅から南越後観光バスで「奥只見ダム」行きの路線が利用可能です。東京駅からは新幹線を含め約2時間35分、新潟駅からは約1時間40分で到着できます。
奥只見ダムと奥只見湖は、エネルギー供給の要であると同時に、自然の美しさと文化、歴史が融合した観光資源です。紅葉やスキー、釣りやカヌーなど四季折々の楽しみ方があり、首都圏からもアクセスしやすい秘境として高い人気を誇ります。巨大ダムの迫力と、雄大な湖の自然美をぜひ現地で体感してみてはいかがでしょうか。