秋田県大館市を代表する名物グルメとして、多くの人々に親しまれているのが「花善の鶏めし」です。大館駅前に本店を構える花善が製造する鶏めしは、発売から七十年以上にわたり変わらぬ味を守り続けてきた伝統の駅弁であり、大館観光ではぜひ味わいたい郷土料理の一つです。
秘伝のスープで炊き上げたご飯の上に、甘辛く煮込んだ鶏肉をのせた素朴な見た目のお弁当ですが、その味わいは実に奥深く、一度食べると忘れられないおいしさとして知られています。地元の人々はもちろん、全国の駅弁ファンからも高い評価を受けており、大館を訪れる観光客にとって欠かせない名物となっています。
花善の鶏めしの誕生は、戦後間もない食糧事情の厳しい時代までさかのぼります。当時、大館市では物資不足の中で米や砂糖、醤油、ごぼうなどが配給され、それらをまとめて炊き込んだご飯が作られていました。これが現在の鶏めしの原型になったといわれています。
さらに、当時販売していた「きりたんぽ弁当」の鶏肉を甘辛く煮付け、従業員のまかないとして利用していたことがヒントとなり、この炊き込みご飯と鶏肉を組み合わせた新しい駅弁が考案されました。
こうして昭和22年(1947年)、「鶏めし弁当」が誕生します。当時の販売価格は80銭でした。戦後復興の時代に生まれたこの駅弁は、人々のお腹と心を満たしながら、大館を代表する味へと成長していきました。
鶏めしが長年にわたり愛され続けている理由は、その味への徹底したこだわりにあります。
ご飯は厳選した鶏肉の煮汁と秘伝のスープを使い、砂糖と醤油で丁寧に炊き上げられます。その上に甘辛く煮込んだ鶏肉をたっぷりとのせることで、鶏の旨みがご飯に染み込み、豊かな風味を生み出しています。
派手な味付けではありませんが、どこか懐かしく優しい味わいが特徴です。噛むほどに鶏の旨みとご飯の甘みが広がり、昔ながらの日本の家庭料理を思わせる温かみを感じることができます。
発売以来、容器やパッケージは時代に合わせて変化してきましたが、味付けだけは頑なに守り続けられてきました。その変わらぬおいしさこそが、花善の鶏めし最大の魅力といえるでしょう。
花善が特に大切にしているのが、「冷めてもおいしい駅弁づくり」です。
駅弁は列車内や売店で購入して食べることが多く、必ずしも出来たてを味わえるとは限りません。そのため花善では、冷めてもおいしさを保てるよう長年研究を重ねてきました。
職人たちは季節や気温、湿度の変化を見極めながら、秘伝のスープの配合を微調整しています。長年培われた経験と勘によって炊き上げられるご飯は、時間が経っても風味が損なわれにくく、駅弁として理想的な状態を維持しています。
この職人技が、多くの利用者から高く評価される理由の一つです。
花善では、秋田県を代表するブランド米「あきたこまち」を100%使用しています。
厳選された良質なお米を、プロパンガスによる絶妙な火力調整で炊き上げることで、お米本来の甘みと香りを最大限に引き出しています。
鶏めしを口にするとまず感じるのは、ご飯そのもののおいしさです。鶏肉の旨みと調和したふっくらとしたご飯は、多くのファンを魅了し続けています。
花善の鶏めし弁当は、一般的な駅弁と比べてご飯の量がやや多めです。
これは鶏めしが誕生した戦後の時代背景と深く関係しています。当時は「満腹になること」が何よりの幸せでした。その思いを大切にし、花善では今でもしっかりと食べ応えのある量を維持しています。
「お腹いっぱいになってほしい」という創業当時からの願いが、現在の鶏めしにも受け継がれているのです。
花善では定番の鶏めし弁当に加え、秋田県のブランド食材である比内地鶏を使用した「比内地鶏の鶏めし弁当」も販売しています。
比内地鶏は日本三大地鶏の一つに数えられ、豊かな旨みと程よい歯ごたえが特徴です。噛むほどに広がる濃厚な味わいは、通常の鶏めしとはまた違った魅力があります。
大館ならではの食文化を堪能したい方には、ぜひ味わっていただきたい一品です。
花善の鶏めしは全国の駅弁ファンからも高く評価されています。
JR東日本が開催した「駅弁味の陣2015」では、投票数と総合評価で最高位となる「駅弁大将軍」に選ばれました。翌年も高い評価を獲得し、さらに2021年には「駅弁味の陣10周年記念賞」を受賞しています。
こうした受賞歴は、長年にわたり品質と味を守り続けてきた努力の証でもあります。
JR大館駅前にある花善本店では、駅弁の購入だけでなく、店内のお食事処で出来たての鶏めしを味わうことができます。
2017年に完成した新社屋には、ゆったりと食事を楽しめる食事処のほか、売店や製造工程の見学スペース、花善の歴史を紹介するギャラリーも併設されています。
観光の途中に立ち寄れば、駅弁とはひと味違う温かい鶏めしを楽しめるほか、大館の食文化や歴史にも触れることができます。
花善の鶏めしは、単なる駅弁ではありません。戦後の知恵と工夫から生まれ、多くの人々に愛されながら受け継がれてきた大館の食文化そのものです。
素朴でありながら奥深い味わい、職人の技が生み出すご飯のおいしさ、そして長年守られてきた伝統。そのすべてが詰まった鶏めしは、大館観光の思い出をより豊かなものにしてくれるでしょう。
大館を訪れた際には、ぜひ本場の花善で鶏めしを味わい、その変わらぬおいしさと歴史の深さを体感してみてください。