天赦園は、愛媛県宇和島市に位置する日本庭園で、国の名勝に指定されています。もともとは、宇和島藩の七代藩主である伊達宗紀(だて むねとし)が、隠居所として文久2年(1862年)に着工し、慶応2年(1866年)に完成させた庭園です。総面積は11,240平方メートルあり、そのうち約3分の1が池で占められています。池泉回遊式の庭園として設計され、背景には鬼ヶ城連峰を借景として取り入れており、自然と調和した美しい風景が特徴です。
天赦園という名称は、初代仙台藩主である伊達政宗(だて まさむね)の漢詩「酔余口号(すいよこうごう)」に由来しています。この詩には「馬上に少年過ぎ 世は平にして白髪多し 残躯は天の赦す所 楽しまずして是を如何せん」という一節があり、これは「若き頃を過ごした今、残された時間を天が赦した場所で楽しもう」という意味を含んでいます。宗紀は、隠居後の静かな生活を求めて、この庭園を築き、その名前を「天赦園」としました。
天赦園は、伊達家の家紋である「竹に雀」を象徴するように、多様な種類の竹が植えられています。大名竹、豊後竹、真竹、孟宗竹など、珍しい竹が18種類も揃っています。また、伊達家が藤原氏の血を引いていることから、庭園内には多くの藤が植えられています。大紫藤、白藤、上り藤などの藤が、毎年春には美しい花を咲かせ、訪れる人々を魅了しています。さらに、ショウブの種類も豊富で、季節ごとに異なる風情を楽しむことができます。
天赦園は、池泉回遊式庭園として設計されており、園内を散策することでさまざまな風景を楽しむことができます。中央に広がる池は、鬼ヶ城連峰を背景にしており、池の周囲を歩くと、山々の風景が水面に映り込む美しい景観が広がります。池の周囲には、石組みや橋、庭石が配置され、自然の美しさを引き立てています。また、庭園内には小さな滝や流れがあり、静かな水音が訪れる人々を癒してくれます。
天赦園には、茶室「春雨亭(しゅんうてい)」があります。この茶室は、もともと旧潜淵館(せんえんかん)に付属していたもので、茶道を楽しむための静かな空間となっています。また、庭園内には、見事な石組みが点在しています。池の護岸には陰陽石(いんようせき)が配置され、三尊石組(さんぞんいしぐみ)、立石と平天石(ひらてんせき)、枯滝石組(からたきいしぐみ)や彼流石組(ひりゅうせきぐみ)などが庭園の各所に施されています。これらの石組みは、庭園の景観に奥行きを与え、季節ごとに異なる表情を見せています。
天赦園は、その美しい景観と静かな環境から、多くの著名な訪問者を迎えてきました。特に、昭和天皇が皇太子時代の大正11年(1922年)に天赦園を訪れ、茶室「春雨亭」で休憩を取ったことは有名です。また、昭和41年(1966年)には昭和天皇が皇后とともに再訪し、庭園内を散策されたことが記録されています。これらの訪問は、天赦園が日本庭園としての価値をさらに高める契機となりました。
天赦園は、伊達家の歴史と深く結びついた文化財として、昭和43年(1968年)5月20日に国の名勝に指定されました。この庭園は、伊達家が築いた庭園文化の粋を集めたものであり、日本庭園の美しさとその歴史的価値を今に伝えています。また、園内の植栽や石組みは、当時の庭園技術の高さを示すものであり、訪れる人々に日本の伝統美を感じさせてくれます。
天赦園を訪れる際は、ゆっくりと園内を散策し、四季折々の風景を楽しむことをお勧めします。春には藤や竹の若葉、夏にはショウブや池に映る青空、秋には紅葉、冬には雪景色が見られます。また、茶室「春雨亭」で静かにお茶を楽しむのも一興です。庭園内の各所にある石組みや橋、滝などを眺めながら、歴史と自然が調和した美しい空間を堪能してください。
天赦園は、宇和島市を訪れた際にはぜひ立ち寄りたいスポットの一つです。その美しい庭園と静かな環境で、日常の喧騒から離れて心安らぐひとときを過ごすことができるでしょう。
4月~6月 8:30~17:00
7月~3月 8:30~16:30
12月第2月曜日~2月末期間の月曜日(祝日の場合は翌日)
年末年始(12/28~1/1)
大人 500円
高校生・高齢者(65歳以上)300円
中学生 200円
小学生 100円
宇和島駅から徒歩で20分