寺院の概要
中山寺の本尊は、インドの勝鬘夫人（しょうまんぶにん）の姿を写した三国伝来の尊像と伝えられています。本尊の左右には十一面観音が祀られており、これらを合わせて三十三面として、西国三十三所観音を総摂すると同時に、法華経（観音経）に説かれる観音菩薩の三十三の変化身を表象しています。そのため、この寺を参拝することは真の三十三所巡拝と同じ功徳が得られるとされています。
通常は秘仏となっている本尊は、毎月18日に開扉されます。また、中山寺は安産祈願の寺としても有名で、地元の人々からは「中山さん」と親しみを込めて呼ばれています。
本尊真言とご詠歌
本尊真言：おん まかきゃろにきゃ そわか
ご詠歌：野をもすぎ 里をもゆきて 中山の 寺へ参るは 後（のち）の世のため
中山寺の歴史
創建と初期の発展
寺伝によれば、中山寺は聖徳太子が建立した日本最初の観音霊場であると伝えられています。創建の背景には、仲哀天皇と先后大中姫の子である麛坂皇子と忍熊皇子の追善供養や、蘇我馬子と聖徳太子に敗れた物部守屋の霊を鎮めるための目的があったと言われています。創建当初の寺は現在の奥之院の場所に位置していました。
奈良時代には、中山寺は大小多数の堂塔伽藍を備えた大寺院として発展し、「極楽中心仲山寺」と称されました。
徳道上人と西国三十三所巡礼
養老2年（718年）、大和国長谷寺の徳道上人が冥土で閻魔大王から「観音信仰を広めるように」と言われ、御宝印を授かりました。この御宝印は、中山寺にある白鳥塚古墳内の石棺に納められました。徳道上人は観音巡礼を広めようとしましたが、当時は上手くいかず、その後約270年後の平安時代になってから花山法皇がこの御宝印を見つけ出し、西国三十三所観音巡礼を再興しました。そして、中山寺はその第24番札所となりました。
安産祈願と信仰の広がり
平安時代末期、多田行綱は妻の不信心に悩んでいたところ、中山寺の観音が「鐘の緒」を使って妻を改心させ、夫妻は仲睦まじくなりました。これを契機に、中山寺の観音に子授かりや安産祈願の信仰が生まれ、皇族や貴族、武家、庶民に至るまで広く信仰を集めるようになりました。
戦火と再建
天正6年（1578年）に始まった有岡城の戦いの際、荒木村重と織田信長の戦火を受けて、中山寺の全山が焼失しました。その後、安土桃山時代には豊臣秀吉が中山寺に祈願して豊臣秀頼を授かったと言われています。慶長年間（1596年 - 1615年）には現在の場所に移転し、豊臣秀頼が片桐且元を普請奉行として本堂や護摩堂、阿弥陀堂などの伽藍を再建しました。
近代以降の歴史
幕末には、中山一位局が明治天皇を出産する際に安産祈願をして無事出産したことから、中山寺は日本唯一の明治天皇勅願所となりました。1995年（平成7年）1月17日の阪神・淡路大震災では、堂舎や塔頭が被災しましたが、その後復興が進められました。
奥之院と厄神明王
中山寺の背後には中山があり、山腹には中山寺奥之院が位置しています。ここには厄神明王が祀られ、本堂脇にある湧水は「大悲水」と呼ばれています。中山寺の境内から奥之院までは18丁（約2キロメートル）あり、徒歩で約50分程度で参拝することができます。
安産祈祷会とバリアフリー
中山寺では、毎月の戌の日に安産祈祷会が行われます。この日は安産を願う参詣者が日本各地から訪れ、祈祷を受けた腹帯「鐘の緒（かねのお）」を求めて賑わいます。また、境内はエレベーターやエスカレーター、手すりが設置されており、妊婦や年配者、障害者の参拝が容易になるようバリアフリー化が進められています。
境内の見どころ
本堂（兵庫県指定有形文化財）
中山寺の本堂は、慶長8年（1603年）に豊臣秀頼によって再建されました。西国三十三所の観音菩薩を象徴する三十三面の観音像を祀る点が大きな特徴です。本堂は華やかな彩色や精緻な彫刻で飾られ、特に江戸時代中後期に施された装飾が美しいことで知られます。平成17年から平成20年にかけての修復により、彩色が復元されました。
五重塔「青龍塔」
2017年（平成29年）に再建された五重塔「青龍塔」は、東方を守護する青龍にちなんだ珍しい深青色の外観を持ちます。塔内にはネパールのダルマキールティ僧院から請来された御舎利が安置されており、岡山県美作市の大野神社にある樹齢400年の檜を心柱として使用しています。高さ約28メートルで、初層には裳階（もこし）が付けられています。
護摩堂（兵庫県指定有形文化財）
本堂と同じく慶長8年（1603年）に豊臣秀頼によって再建された建物で、近畿三十六不動尊霊場第21番札所に指定されています。護摩供養が行われる場として、多くの参拝者が訪れます。
大願塔
2007年（平成19年）に再建された朱色の多宝塔で、大日如来を祀る特別永代供養のお位牌安置所となっています。
五百羅漢堂
1997年（平成9年）に再建され、堂内には約700体の羅漢像が並んでいます。地下には涅槃堂があり、涅槃図と金色の千体仏が奉納されています。
山門（仁王門・兵庫県指定有形文化財）
「望海楼」とも呼ばれる二重門で、正保3年（1646年）に徳川家光によって再建されました。享保8年（1723年）に修理され、2009年（平成21年）には改修工事が行われています。門の左右には仁王像が鎮座し、悪しきものの侵入を防ぐとともに、足腰の健康を願う『わらじ』が奉納されています。
奥之院と白鳥塚古墳
奥之院
中山寺の伽藍から北西に約2キロメートル離れた場所にあり、かつて中山寺の本堂があったとされる地です。白鳥石と呼ばれる大岩の窟（いわや）には、忍熊皇子が日本最初の厄神明王として祀られています。また、本堂は白鳥石の拝殿でもあり、摂津国八十八箇所第71番札所となっています。
白鳥塚古墳（兵庫県指定史跡）
中山寺境内にある古墳で、寺伝によると仲哀天皇の先后・大仲姫（大中姫命）が埋葬されたとされています。古墳内部の石棺は「石の櫃（からと）」と呼ばれ、徳道上人が埋め、後に花山法皇が見つけ出したという閻魔大王から頂いた御宝印が納められていたと伝えられます。
四季折々の風景
梅の名所
中山観音公園には、千鳥紅梅、鹿児島紅梅、白加賀、玉梅、豊後、摩耶紅梅など約1,000本の梅が植えられており、毎年春には多くの花見客で賑わいます。
夫婦岩
境内には「夫婦岩」と呼ばれる岩があり、縁結びや夫婦円満を願う参拝者が訪れます。
アクセス情報
中山寺へは、阪急電鉄「中山観音駅」から徒歩約1分と、非常にアクセスが良好です。また、JR「中山寺駅」からも徒歩約10分で訪れることができます。駐車場も完備されているため、車での参拝も可能です。
まとめ
中山寺は、西国三十三所第24番札所としての歴史的な価値はもちろんのこと、安産祈願の寺として広く信仰を集めています。また、五重塔「青龍塔」や護摩堂、五百羅漢堂などの見どころも多く、四季折々の美しい景観を楽しめるのも魅力です。特に梅の季節には境内が華やかに彩られ、訪れる人々を楽しませてくれます。歴史と自然が融合する中山寺へ、ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか。