田沢湖
田沢湖は、秋田県仙北市にある淡水湖で、一級河川雄物川水系に属します。日本で最も深い湖であり、日本で19番目に広い湖でもあります。その全域が田沢湖抱返り県立自然公園に指定されており、日本百景にも選ばれている景勝地です。
秋田県の中東部に位置し、湖は円形で直径約6km、最大深度は423.4mで日本第1位を誇ります。湖面標高は249mで、最深部の湖底は海面下174.4mに達します。真冬でも湖面が凍り付くことはありません。
歴史
田沢湖の成因は、過去に隕石クレーター説などが検討されましたが、現在では180万年前から140万年前の爆発的噴火によるカルデラ説が有力です。
田沢湖周辺では古くから漁業が行われ、1715年には固有種であるクニマスに関する記述があります。戦時体制下の1940年には、食糧増産と電源開発計画のために近くの玉川から強酸性の水を湖に導入する水路が作られました。その結果、多くの魚類が絶滅し、漁業も衰退しました。
その後、玉川の水質中和施設が1989年に完成し、水質は中性化してきていますが、湖全体の水質回復には至っていません。
水質
かつて田沢湖は透明度が高く、水産生物も豊富でした。しかし、1940年に導入された玉川の強酸性水により酸性化が進行しました。1972年から本格的な中和処理が始まり、1991年には玉川酸性水中和処理施設が稼働しました。現在、湖水表層部は中性に近づいていますが、深度200メートル以上では依然として酸性です。
2015年には、湖底調査により水深70メートルまで日光が入り込むほどの透明度が確認されました。湖底は白い沈殿物で覆われていますが、湖底の生物や人工物は確認されていません。
たつこ像と田沢湖の伝説・伝承
田沢湖という名称は明治時代に定着しました。それ以前は「田沢の潟」や「辰子潟」と呼ばれていました。田沢湖には、龍に関する伝説が数多く残されています。
中でも有名なのが、辰子姫と八郎太郎の悲恋伝説です。美しい辰子姫と八郎太郎は互いに愛し合っていましたが、ある日八郎太郎は突然姿を消してしまいます。悲嘆に暮れた辰子姫は湖に身を投げてしまい、その魂は龍となって湖を守り続けていると言われています。
また、辰子が若さと美しさを保つために泉の水を飲んで龍になったという話があります。
田沢湖の湖畔には辰子伝説にまつわる像が4体あり、舟越保武作の「たつこ像」の他に、「辰子観音」「姫観音像」「たつこ姫像」があります。
観光
田沢湖畔には、民間伝承に基づいて舟越保武作のたつこ像が建てられており、湖の北岸には御座石神社があります。周囲には秋田県道が整備され、みやげ店、温泉旅館、ホテルなどが多数営業しています。
4月から11月まで遊覧船を運航しており、レストハウスの営業や足こぎボートの貸出も行っています。湖畔の一部では湖水浴も楽しめます。
気候
田沢湖は近くに駒ヶ岳や奥羽山脈があり、その影響を受けやすい地域です。夏は涼しく、冬は極めて寒冷です。
8月の平均気温は23℃前後で、猛暑日はほとんどありません。過去最高気温は2018年8月23日の36.5℃です。ヒートアイランド現象の影響も少なく、熱帯夜もほとんど発生しないため、日本有数の避暑地となっています。
一方、1月の平均気温はマイナス3℃前後、最低気温はマイナス6℃前後と非常に寒冷です。
生物
1940年以前、田沢湖にはクニマス、ヒメマス(十和田湖より移入)、ウグイ、アメマス、ギギ、イワナ、コイ、ナマズ、ウナギなどが生息していました。しかし、1940年の玉川からの強酸性水導入により、動物性プランクトンや魚類の分布相にも変化が生じました。酸性に強いウグイは残りましたが、酸性に弱いサケ科魚類やコイは姿を消しました。一方で、ウグイは優占種となり、大型化しました。
1948年の調査では、ウグイ、アメマス、ギギが生息していることが確認されましたが、クニマスを含むサケ科魚類やコイ、ウナギは絶滅しました。1995年から1998年にかけて「深湖魚クニマスを探しています」というキャンペーンが行われましたが、発見には至りませんでした。しかし、2010年に山梨県の西湖でクニマスの生存が確認され、「クニマス再発見」のニュースとなりました。これを機に、2011年に西湖との姉妹湖提携が行われましたが、水質の問題が解決されていないため、クニマスの里帰りは実現していません。