秋田県南秋田郡五城目町の馬場目川上流域に、ひっそりとたたずむ不思議な巨岩があります。その名は「ネコバリ岩(根古波離岩)」。高さ約6メートルの巨大な岩の上に、スギやブナ、カエデなどの樹木が生い茂り、まるで小さな森がそのまま岩の上に乗っているかのような独特の景観をつくり出しています。
自然が長い年月をかけて生み出したこの奇岩は、訪れる人々に驚きと感動を与えています。清流・馬場目川のせせらぎと豊かな森林に囲まれた環境の中で、その神秘的な姿はまるで物語の世界に迷い込んだかのような雰囲気を漂わせています。
ネコバリ岩の最大の特徴は、岩の上に生える木々の根です。巨木の根は岩の上から地面に向かって長く伸び、波打つような形で地表へとつながっています。その姿がまるで大地へ必死にしがみつき、生きようとしているように見えることから、「根が古く波のように離れている」という意味を込めて「根古波離(ネコバリ)」と名付けられたと伝えられています。
また、秋田の方言で「頑張る」「力を込める」という意味を持つ「ねこばる」という言葉にも通じることから、困難な環境の中でも力強く生き続ける木々の姿を象徴する名前として親しまれています。
岩の上に生える木々は、限られた土壌の中で何十年、何百年という長い時間をかけて成長してきました。根は複雑に絡み合いながら岩肌を這い、やがて離れた地面へと到達しています。
その姿はまるで巨大な生き物の足のようにも見え、見る人によっては神話に登場する生物や、森の精霊を連想させるともいわれています。
近くで観察すると、自然が持つ圧倒的な生命力やたくましさを肌で感じることができます。木々が生き抜こうとする力強い姿は、多くの人々に勇気や癒やしを与えており、近年ではパワースポットとしても知られるようになりました。
ネコバリ岩は、2009年に公開された映画「釣りキチ三平」のロケ地としても有名です。秋田県出身の漫画家・矢口高雄氏の代表作を映画化した作品で、美しい馬場目川流域の自然が撮影に活用されました。
映画の舞台となった馬場目川は、透明度の高い渓流として知られ、古くから釣り人たちに愛されてきた名所です。ネコバリ岩も作品の印象的な風景のひとつとして登場し、映画公開後は多くの観光客が訪れる人気スポットとなりました。
周辺には映画で主人公・三平の自宅として使用された「三平の家」も残されており、作品の世界観をより深く楽しむことができます。
ネコバリ岩の周辺には、昔ながらの農村風景が色濃く残されています。特に北ノ又集落には茅葺き屋根の古民家が点在し、日本の原風景ともいえる懐かしい景観を見ることができます。
山々に囲まれた静かな集落では、四季折々の自然が美しく、春の新緑、夏の深い緑、秋の紅葉、冬の雪景色と、一年を通じて異なる表情を楽しめます。
田んぼのあぜ道や山里の風景は、どこか懐かしく心を和ませてくれます。都会の喧騒を離れ、ゆったりとした時間を過ごしたい方には特におすすめの場所です。
ネコバリ岩がある馬場目川上流域は、秋田県内でも有数の渓流釣りスポットとして知られています。清らかな流れにはイワナやヤマメなどが生息し、毎年多くの釣り愛好家が訪れます。
春には「みちのく渓流釣り大会in馬場目川」が開催され、県内外から多くの釣り人が集まります。豊かな自然と澄んだ水が育む渓流魚は、この地域ならではの大きな魅力となっています。
ネコバリ岩へ向かう道は、北ノ又集落を過ぎた先にあります。周辺には細い砂利道もあるため、車で訪れる際は十分に注意が必要です。県道沿いの駐車スペースを利用し、徒歩で向かう方法がおすすめです。
また、冬季は積雪のため通行が難しくなる場合がありますので、訪問前に道路状況を確認すると安心です。
自然豊かな環境の中にあるため、歩きやすい靴や服装を準備し、周囲の自然環境を大切にしながら散策を楽しみましょう。
ネコバリ岩は、単なる奇岩ではありません。長い年月をかけて育った木々と巨岩が織りなす景観は、自然の力強さや生命の尊さを教えてくれる特別な場所です。
映画のロケ地として知られるだけでなく、日本の原風景が残る北ノ又集落や美しい馬場目川とともに、多くの人々を魅了し続けています。
五城目町を訪れた際には、ぜひネコバリ岩まで足を延ばし、大自然がつくり出した神秘的な風景と力強い生命の息吹を感じてみてはいかがでしょうか。