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佐比賣山神社・多根神楽

(さひめやま じんじゃ たね かぐら)

三瓶山信仰と神話を今に伝える古社

島根県大田市三瓶町多根に鎮座する佐比賣山神社は、三瓶山の古名「佐比賣山」の名を今に伝える歴史ある神社です。豊かな自然に囲まれたこの神社は、古代より人々の信仰を集めてきた三瓶山の山岳信仰と深く結びつき、神話や歴史、地域文化を現代へと受け継いでいます。

三瓶山は、古くは733年に編纂された『出雲国風土記』に「佐比賣山」と記され、出雲神話に登場する「国引き神話」の舞台のひとつとして知られています。神話の中では、出雲の国を広げるために他国の土地を引き寄せ、その綱を繋ぎ止めた杭の山が「佐比賣山」であると伝えられています。

そんな悠久の神話を背景に持つ佐比賣山神社は、三瓶山の麓に静かに佇み、古代から続く人々の祈りを今も感じさせてくれる神聖な場所です。

出雲国風土記にも記された「佐比賣山」

三瓶山の古名「佐比賣山」は、奈良時代に編纂された『出雲国風土記』に登場します。和銅6年(713年)、元明天皇の命によって各地の風土記編纂が始まり、出雲地方の地名や伝承、自然などが記録されました。

その後、神亀3年(726年)頃には「三瓶山」という現在の呼び名へ変わったとされていますが、「佐比賣」という名はこの神社に受け継がれています。

明治時代の町村制施行によって「佐比賣村」という地名は消滅しましたが、佐比賣山神社は今もなお古代の名を守り続けています。地域の歴史や神話を語り継ぐ貴重な存在として、多くの人々に大切にされています。

創建は平安時代と伝わる格式高い神社

佐比賣山神社は、平安時代の寛平3年(891年)に鎮座したと伝えられる式内社です。延喜式にも名を連ねる由緒ある神社であり、古くから地域の守り神として崇敬を集めてきました。

御祭神として祀られているのは、出雲神話で有名な大己貴命(おおなむちのみこと)少彦名命(すくなひこなのみこと)、そして須勢理姫命(すせりひめのみこと)です。

大己貴命は一般には大国主命として知られ、国造りの神として広く信仰されています。少彦名命は医薬や農業、酒造などを司る神であり、須勢理姫命は大国主命の妃神として知られています。

社伝によると、大国主命がこの地で池を築き、田畑を開き、人々へ農耕の技術を教えたことから、その功績を称えて神を祀ったのが神社の始まりとされています。また、このことから地域名を「多根(たね)」と呼ぶようになったとも伝えられています。

三瓶山とともに息づく山岳信仰

古代の人々にとって、三瓶山は単なる山ではなく、神が宿る神聖な存在でした。三瓶山の山麓には豊かな湧水が点在し、その水を中心に集落が形成されていったと言われています。

そして、それぞれの集落には三瓶山を祀る神社が存在していました。佐比賣山神社をはじめ、高田八幡宮や八面神社などは、その山岳信仰の流れを受け継ぐ神社とされています。

境内には椎やタブノキ、杉、榎などの巨木が立ち並び、鎮守の森として神秘的な雰囲気を漂わせています。木々の間を吹き抜ける風や鳥のさえずりに耳を傾けると、古代から変わらない自然への畏敬の念を感じることができます。

願いを結ぶ「叶え杭」

佐比賣山神社の見どころのひとつが、願掛けスポットとして知られる「叶え杭」です。

これは出雲神話の「国引き神話」に由来しています。神話では、八束水臣津野命(やつかみずおみつののみこと)が「国々来々(くにこくにこ)」と唱えながら他国の土地を引き寄せ、その綱を佐比賣山に結びつけたとされています。

この伝承にちなみ、国引きの神を祀る長浜神社の「願い綱」を、佐比賣山神社境内の三本の石柱に結び、願いを叶え福を繋ぎ止める場所として整備されました。

現在では、多くの参拝者が願い事を込めて訪れる人気のスポットとなっています。静かな森の中で手を合わせると、不思議と心が落ち着き、前向きな気持ちになれる場所です。

地域に受け継がれる「多根神楽」

佐比賣山神社では、地域に古くから伝わる「多根神楽」が奉納されます。多根神楽は、大田市の無形民俗文化財にも指定されている貴重な伝統芸能です。

明治時代、神職による神楽舞が禁止された後、神社の宮司が村人へ舞を伝えたことが始まりとされています。その後、一時は継承が危ぶまれましたが、地域の青年団などが保存活動に力を注ぎ、現在まで受け継がれてきました。

石見地方の神楽といえば、テンポの速い「八調子」が有名ですが、多根神楽は古い形式を残す「六調子」の優雅な舞が特徴です。

演目には「榊舞」「四方剣」「国向けの舞」など数多くの神楽があり、厳かで気品ある舞が観る人を魅了します。例大祭や7年ごとの大元祭では、幻想的な神楽奉納が行われ、多くの参拝者で賑わいます。

歴史を物語る社殿と文化財

佐比賣山神社では、過去の火災や再建の歴史を示す棟札も発見されています。文明5年(1473年)の火災後、文明8年(1476年)に社殿が再建された記録や、戦国時代の棟札なども残されており、この神社が長い歴史の中で地域の人々に守られてきたことがわかります。

また、境内には「哲学の小道」と呼ばれる散策路もあり、ゆったりと自然を感じながら歩くことができます。神社全体が静かな癒やしの空間となっており、観光だけでなく心を落ち着ける場所としても人気があります。

日本遺産を彩る三瓶山の歴史文化

佐比賣山神社は、日本遺産「石見の火山が伝える悠久の歴史 ~“縄文の森”“銀の山”と出逢える旅へ~」の構成文化財にも関連する存在です。

火山活動によって生まれた三瓶山の自然、出雲神話、石見銀山の歴史など、この地域には数千年にわたる壮大な歴史が息づいています。

佐比賣山神社を訪れることで、単なる観光地巡りでは味わえない、神話と自然、そして人々の暮らしが重なり合う奥深い文化に触れることができるでしょう。

三瓶山観光とあわせて訪れたい癒やしの古社

三瓶山周辺には、美しい自然景観や温泉、歴史文化施設など多くの観光スポットがあります。その中でも佐比賣山神社は、三瓶山信仰の原点ともいえる特別な場所です。

四季折々の自然に包まれた境内では、春の新緑、夏の深い森、秋の紅葉、冬の静寂など、それぞれ異なる美しさを楽しめます。

JR大田市駅から車で約20分とアクセスもしやすく、三瓶山観光の際にはぜひ立ち寄りたいスポットです。古代神話の息吹を感じながら、悠久の歴史に思いを馳せるひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。

Information

名称
佐比賣山神社・多根神楽
(さひめやま じんじゃ たね かぐら)
Sahimeyama Shrine and Tane Kagura
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