歴史
創建と伝承
観心寺の創建は奈良時代にさかのぼります。伝承によれば、大宝元年（701年）、修験道の祖である役小角（役行者）によって開かれ、当初は「雲心寺」と呼ばれていました。その後、平安時代の大同3年（808年）、弘法大師空海がこの地を訪れ、北斗七星を勧請したと伝えられています。この伝承に基づき、現在も境内には「星塚」と呼ばれる七つの塚が残されています。
寺号の由来と如意輪観音像
弘仁6年（815年）、再び訪れた空海は、衆生の厄除けを祈願して自ら如意輪観音像を刻み、安置したとされています。そして、このとき「観心寺」と改名されたと伝えられています。この如意輪観音像は現在、金堂の本尊として祀られており、9世紀の様式を持つ貴重な仏像として知られています。
実恵による伽藍の建立
実質的な観心寺の開山とされるのは、空海の一番弟子である実恵（道興大師）です。『観心寺縁起資財帳』（国宝）によれば、淳和天皇の命を受けた実恵の弟子、真紹が天長4年（827年）に伽藍の造営を始めたと記されています。この工事は国家安泰と厄除けを祈願するためのもので、観心寺は高野山と奈良・京都を結ぶ中継地としても重要な役割を果たしました。
楠木氏との関係
観心寺は、楠木氏の菩提寺としても有名です。建武元年（1334年）、後醍醐天皇により楠木正成が金堂の外陣造営を命じられました。その後、正平年間（1346年 - 1370年）に完成しています。また、正平14年（1359年）から正平15年（1360年）にかけては、後村上天皇の行宮として使用されました。
建掛塔と楠木正成の祈願
境内にある建掛塔（たてかけとう）は、三重塔の一層目のみが建てられた未完成の建築物です。伝承では、楠木正成が建武の新政の成功を祈願して三重塔を建立しようとしましたが、湊川の戦いで討死したため中断されたと言われています。現在の建掛塔は再建されたものです。
室町時代以降の歴史
室町時代には、管領畠山氏の庇護を受けて栄えましたが、戦国時代には織田信長に寺領を没収されるなど苦難の時代を迎えます。しかし、豊臣秀吉による寄進や豊臣秀頼による修復が行われ、寺は再び繁栄しました。江戸時代には江戸幕府の旗本甲斐庄氏などの支援を受け、伽藍の維持に努めました。
現代の観心寺
明治時代の廃仏毀釈の影響を受け、塔頭は減少しましたが、現在も本坊である槙本院と中院が残っています。2005年には、高野山真言宗総本山金剛峯寺より「遺跡本山」の寺格を贈与され、歴史的価値が再確認されました。
観心寺の境内
観心寺は多くの文化財や歴史的建築物が残る寺院で、訪れる人々にその歴史と文化の奥深さを感じさせます。
金堂（国宝）
南北朝時代、正平年間（1346年 - 1370年）に建立された観心寺の金堂は、桁行七間、梁間七間、入母屋造、本瓦葺きの建築です。この堂は和様と禅宗様の要素を併せ持つ折衷様仏堂の代表例として知られています。
外観は朱塗の柱と白い漆喰壁が特徴で、これは和様の要素を示しています。一方、扉には禅宗様の桟唐戸が用いられています。堂正面では、七間の中央五間が桟唐戸、両端一間が和様の連子窓となっています。内部は外陣、内陣、脇陣、後陣に分かれ、内々陣には本尊如意輪観音像が安置されています。
建掛塔（重要文化財）
文亀2年（1502年）に再建された建掛塔は、元々三重塔として建設される予定でした。楠木正成がその建立を発願しましたが、討死によって工事が中断され、一重目まで完成したところで仏堂に改築されました。その後、焼失を経て再建されています。
鐘堂
鐘堂は境内の静けさを象徴する存在で、僧侶や参拝者が祈りを捧げる際に鐘を鳴らす場所です。
訶梨帝母天堂（鎮守堂、重要文化財）
天文18年（1549年）に再建された訶梨帝母天堂は、観心寺の鎮守として重要な役割を果たしています。その隣には、延享元年（1744年）に再建された拝殿が建っています。
後村上天皇桧尾陵
後村上天皇の桧尾陵は観心寺境内に位置し、南朝の歴史を伝える重要な史跡です。
御影堂（大師堂、大阪府指定有形文化財）
江戸時代中期に再建された御影堂は、弘法大師空海を祀る堂として多くの信仰を集めています。
本坊とその施設
本坊には、旧槙本院を改築した施設が含まれます。書院（重要文化財）、庫裏、中門、勅使門などがあり、それぞれに歴史的な価値があります。
山門（大門、大阪府指定有形文化財）
万治2年（1659年）に再建された山門は、観心寺への入り口として訪れる人々を迎えます。その壮麗な造りが印象的です。
星塚
観心寺には北斗七星にちなんだ七つの「星塚」があります。それぞれが北斗七星如意輪曼荼羅として祀られています。
その他の見どころ
- 霊宝館
- 恩賜講堂（重要文化財）
- 弁天堂
- 阿弥陀堂
- 行者堂
- 道興大師御廟
- 阿野廉子（新待賢門院）の墓
楠木正成と首塚
楠木正成は建武の新政の成功を祈願して観心寺で三重塔の建立を発願しましたが、湊川の戦いで討死しました。その後、正成の首が観心寺に届けられ、首塚に祀られています。境内には彼を顕彰する銅像も建立されています。正成の生涯と南朝への貢献を偲ぶため、多くの参拝者が訪れます。
文化財の魅力
木造如意輪観音坐像
木造如意輪観音坐像は、観心寺の本尊として金堂内陣の厨子内に安置されています。平安時代前期の9世紀に作られたこの像は、高さ108.8cmの六臂（手が6本）の密教彫像であり、秘仏として毎年4月17日と18日の2日間のみ開扉されます。この像は、保存状態が非常に良く、表面の彩色や文様が当時の姿を今に伝えています。
右脚を立て膝にし、6本の手のそれぞれが異なるポーズを取っています。右第一手は頬に当てて思惟相を示し、第二手は胸前で如意宝珠を捧持、第三手は垂下して数珠を持つなど、密教彫像特有の繊細な表現が見られます。また、頭・体の主要部分を一材から彫り出し、左膝外側部や各腕を別材で補う一木造が用いられています。
さらに、表面には木屎漆を厚く盛り上げた乾漆技法が用いられており、柔らかい肌の質感が表現されています。衣装や台座には繧繝彩色と截金が施され、当初の彩色が見事に保存されています。特に裳の装飾は地色や文様を4段に分け、極めて入念に仕上げられています。
台座と光背
台座は八重蓮華座で、平安初期の仏像台座の典型作とされています。36枚の蓮弁が用いられ、そのうち9枚が像と同時期に作られたものと推定されています。光背は平安時代の二重円相部分が現存しているものの、像とは別の像から転用されたとされています。
毀損と修復
1955年（昭和30年）に金堂に不審者が侵入し、本像の右第三手と左第二手が損傷されましたが、その後、修復が行われました。
その他の重要文化財
観心寺には、本尊以外にも数多くの重要文化財が存在します。以下はその一部です。
- 藍韋威肩赤腹巻（伝楠木正成所用）
- 書院
- 訶梨帝母天堂
- 金銅観世音菩薩立像
- 木造不動明王坐像（康円作）
- 観心寺縁起資財帳
周辺の巡礼地
観心寺は、さまざまな巡礼コースにも組み込まれています。以下は代表的なものです。
- 新西国三十三箇所
- 仏塔古寺十八尊
- 関西花の寺二十五霊場
- 神仏霊場巡拝の道
アクセス情報
南海高野線および近鉄長野線 河内長野駅3番乗り場から南海バス小深線「金剛山ロープウェイ前行き」、または小吹台団地線「小吹台行き」に乗車し、「観心寺」バス停下車すぐ。
観心寺は、歴史的背景、楠木氏や南朝との深い関わり、さらに建築や仏像といった文化財の宝庫です。その荘厳な雰囲気と貴重な遺産が、多くの人々を魅了しています。大阪府を訪れる際には、ぜひ足を運び、その歴史と文化を肌で感じてみてはいかがでしょうか。