宗像大社は、福岡県宗像市に位置する神社で、日本各地にある宗像神社や厳島神社の総本社として知られています。古くから神聖な場所とされ、沖ノ島を神域としています。沖ノ島で出土した古代祭祀の奉献品の多くは国宝に指定されており、「海の正倉院」とも称されるほど、貴重な文化遺産が多く存在します。
神社の格付けとしては、名神大社に属する式内社であり、旧社格は官幣大社です。現在は神社本庁の別表神社としてその地位を保ち続けています。『日本書紀』には「道主貴(みちぬしのむち)」と称され、その存在の重要性が示されています。さらに、玄界灘に浮かぶ沖ノ島を神域とし、そこから出土した古代祭祀の奉献品の多くは国宝に指定されており、「裏伊勢」とも称されています。
宗像大社は、辺津宮(へつぐう)、中津宮(なかつぐう)、沖津宮(おきつぐう)の三社で構成されており、そのうち辺津宮は総社として重要な位置を占めています。これら三社は、玄界灘に浮かぶ沖ノ島とその周辺の島々に鎮座し、日本古来の海上交通安全の神として信仰を集めてきました。
筑前大島には沖津宮遥拝所(瀛津宮)もあり、地図上で辺津宮から11km離れた中津宮、さらに49km離れた沖津宮は全て直線上に位置しています。このように、宗像大社の三社は地理的にも重要な関係性を持っています。
辺津宮は、宗像市田島に鎮座し、地元では「田島さま」とも呼ばれ親しまれています。交通安全を祈願する神として、地元の人々から篤い信仰を集めており、新車の購入時にお祓いを受ける人も多く見られます。また、車に装着する交通安全のお守りは、宗像大社が発祥とされています。
中津宮は、筑前大島にあり、辺津宮から11kmの位置にあります。中津宮には沖津宮遥拝所(瀛津宮)も設けられており、沖津宮への遥拝を行うことができます。この中津宮もまた、古代からの海上交通安全の守護神としての役割を担ってきました。
沖津宮は、沖ノ島に鎮座し、宗像三女神のひとつ田心姫神(たごりひめのかみ)を祀っています。島全体が御神体とされ、女人禁制の掟が今も守られています。男性であっても上陸前には禊を行わなければならず、厳格な信仰が続いています。島に上陸したことは「お不言さま(おいわずさま)」として口外してはならず、神聖な場所であることがうかがえます。
2017年(平成29年)には、「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群として、ユネスコの世界文化遺産に登録されました。この遺産群には、沖津宮をはじめ、中津宮や辺津宮、沖ノ島そのものが含まれており、古代から続く祭祀と信仰の歴史を示しています。沖ノ島は、古代から重要な祭祀の地とされ、その島全体が御神体として崇められてきました。島内で発見された多くの遺物や遺構は、歴史的価値が高く、学術的にも貴重なものです。
宗像大社は、『日本書紀』にも登場する歴史ある神社で、古代から海上交通や交流の要所として栄えてきました。宗像三女神(宗像大神)は、大陸と半島を結ぶ海の神として崇められ、海上・陸上の交通安全を祈願する神として信仰されています。
宗像大社の本殿は、宗像氏貞が建立したもので、現在も重要文化財として大切にされています。また、辺津宮の拝殿は小早川隆景によって建立され、重文に指定されています。第二宮は沖津宮を、第三宮は中津宮を分祀しています。高宮祭場は、古代祭祀遺跡を保護しつつ新たに整備された場所で、現在も春と秋の大祭などで庭上祭祀が行われています。
沖ノ島では、昭和29年から十数年にわたる発掘調査が行われ、4世紀から9世紀までの古代祭祀遺構や装飾品が多数発見されました。また、縄文時代から弥生時代にかけての石器や土器などの遺物も発見されており、これらの発見は沖ノ島が古くから神聖な島として信仰の対象であったことを示しています。これらの遺物は「海の正倉院」とも称され、宗像地域の歴史と文化を物語る貴重な資料となっています。
宗像大社は、以下の三女神を祀る神社として知られています。これらの神々は、総称して宗像大神とも呼ばれています。
田心姫神(たごりひめのかみ)
湍津姫神(たぎつひめのかみ)
市杵島姫神(いちきしまひめのかみ)
辺津宮には、本殿や拝殿、祈願殿、儀式殿、清明殿、勅使館、神門など、多くの建築物があり、訪れる人々に神聖な空気を感じさせます。これらの施設は、神聖な儀式や祭事が行われる場として、現在も多くの人々に利用されています。また、末社群には、江戸時代初期に建立された121社の小さな社があり、これらも福岡藩主の寄進によりまとめられたものです。
中津宮にも本殿や拝殿があり、特に本殿は宗像氏貞の建立とされ、辺津宮のモデルとされた可能性があります。拝殿は福岡藩主黒田氏によって再建され、現代に至るまで大切に保存されています。中津宮にはまた、七夕伝説に由来する織女社、牽牛社があり、日本の七夕伝説発祥の地ともいわれています。
沖津宮は三宮の中でも最も小さな社殿であり、巨岩に覆われるように建てられています。沖津宮の禊場や社務所は、訪れる参拝者のために整備されており、神聖な場所としての威厳を保っています。
沖津宮遙拝所は、筑前大島に設置されており、沖ノ島と沖津宮を遥拝することができます。福岡藩主黒田氏の寄進により建立された遙拝殿は、銅板葺きの屋根を持つ破風付きの社殿で、遠く沖ノ島を拝することができる場所として知られています。
宗像大社の歴史は日本神話に遡ります。天照大神と素戔嗚尊(すさのおのみこと)が誓約(うけい)を行った際、天照大神が素戔嗚の剣を噛み砕き、その破片から生まれたのが宗像三女神です。彼女たちは、アマテラスの神勅を奉じて皇孫ニニギノミコトを見守り助けるため、玄界灘に浮かぶ筑紫宗像の島々に降り立ち、この地を治めるようになったとされています。これは、記紀に記載される「天から地に降りた神」として、ニニギノミコトに先んじて降臨した宗像三女神のみの存在を意味します。この伝承は宗像大社の起源として、非常に古くからの由緒を持っています。
宗像大社は、古くから当地の民の氏神として信仰を集めてきました。神功皇后が三韓征伐の際に航海の安全を祈り、その霊験により、宗像大社は特別な崇敬を受けるようになりました。その後、大和朝廷からも重視され、宮中の賢所(かしこどころ)に当社の分霊が奉斎されるなど、遷都の度に大切にされました。
律令制の導入により、宗像一帯が神領として定められ、当地の豪族である宗形氏が神主として神社に奉仕し、神郡の行政も司ることになりました。宗形氏は、代々神職を務める家系であり、その影響力は宗像大社の発展に大きく貢献しました。
宗像氏は、神社の祭祀を担い、時代とともにその権勢を強めていきました。鎌倉時代以降、宗形氏の後身である宗像氏は武士化し、有力な国人領主として成長しました。しかし、戦国時代には大内氏、少弐氏、そして大友氏など、周辺の大名との戦いに巻き込まれ、宗像大社も戦乱の影響を受けました。何度も放火や破壊を経験しましたが、その都度朝廷や武家からの支援を受け、再建を繰り返してきました。
現在の辺津宮(へつぐう)の本殿は、天正6年(1578年)に宗像氏貞が再建したもので、辺津宮の拝殿は天正16年(1590年)に筑前領主であった小早川隆景が再建したものです。いずれも国の重要文化財に指定されています。また、宗像氏から草刈氏へと祭祀の役目が引き継がれ、江戸時代には筑前福岡藩主の黒田氏などによる社殿の造営・修理、社領の寄進が続けられました。
明治時代には、廃仏毀釈の影響で宗像大社に隣接していた屏風山鎮国寺が大社から分離されました。その後、1871年(明治4年)には国幣中社に列し、翌年には官幣中社に昇格、1901年(明治34年)7月11日には最高位の官幣大社に昇格しました。
第二次世界大戦後、荒廃していた境内は、宗像市出身の実業家である出光佐三氏の寄進により整備されました。出光氏は、幼い頃から宗像大社を崇敬しており、沖津宮のある沖ノ島祭祀遺跡の調査発掘の際にも国に働きかけるなど、神社の復興に尽力しました。
1983年(昭和58年)には、皇太子明仁親王(後の明仁上皇)と美智子妃(後の上皇后美智子)が辺津宮を参拝しました。また、2013年(平成25年)には、皇太子徳仁親王(現天皇)が参拝し、2017年(平成29年)には、明仁天皇と美智子皇后が歴代の天皇・皇后として初めて辺津宮へ親拝しました。これらの参拝は、宗像大社の神聖な場所としての価値を再確認させるものとなりました。
また、昭和天皇の弟であり考古学者でもあった三笠宮崇仁親王も度々宗像大社を訪れ、沖ノ島の和歌も詠むなど、皇族からの深い関心を集めてきました。
織幡神社は宗像大社の境外摂社であり、宗像三宮(辺津宮、中津宮、沖津宮)および鎮国寺と合わせて「宗像五社」と称されます。古来より宗像大社の神域を守る重要な役割を担ってきました。
神湊宗像神社は、宗像大社の境外摂社であり、秋季大祭「田島放生会」や「みあれ祭」では、宗像三女神の神輿が並び奉斎される重要な祭礼が行われます。これらの祭事は、古くから地域住民によって大切に守られ、現在でも盛大に執り行われています。
孔大寺神社は、宗像市と岡垣町にまたがる孔大寺山中腹に鎮座する境外摂社です。この神社は、古くから宗像大社と深い関係を持ち、宗像五社の一角としてその信仰を支えています。
宗像大社沖津宮祭祀遺跡出土品・伝福岡県宗像大社沖津宮祭祀遺跡出土品
玄界灘に浮かぶ絶海の孤島・沖ノ島から発掘された、古墳時代から平安時代(4世紀〜10世紀)にかけての遺物が含まれます。出土品には、中国・朝鮮半島製の銅鏡、金銅(銅に金メッキ)製の馬具、土師器、三彩陶器、滑石製品、玉類、刀剣類などがあります。中でも、ペルシャ・サーサーン朝製と見られるガラス椀の破片は特に注目されます。これらの遺物は考古学、美術史、宗教史、古代史などの研究において重要な資料であり、宗像大社の神宝館で公開されています。1962年に第1次・第2次発掘調査出土品が国宝に指定され、2003年には第3次発掘調査出土品も追加指定されました。約8万点に及ぶ遺物が一括して国宝に指定されており、その数量は日本一を誇ります。
宗像神社辺津宮拝殿・本殿
宗像大社の主要な建物である拝殿と本殿は、重要文化財に指定されています。その美しい建築様式は神社建築の歴史を感じさせます。
木造狛犬一対・石造狛犬一対
これらの狛犬は、境内に設置されているもので、木造と石造の両方が重要文化財に指定されています。古来から神社を守る象徴として、訪れる人々の目を引きます。
藍韋威肩白胴丸 兜、壺袖付(あいかわおどしかたじろどうまる)
「藍韋威肩白胴丸」は、鎧の一種で、その美しい装飾と技術は当時の武具制作の高度な技術を示しています。
経石(正面阿弥陀如来像・背面阿弥陀経)(阿弥陀仏経碑)
この経石には阿弥陀如来像と阿弥陀経が刻まれており、宗教的にも芸術的にも貴重な文化財です。
宗像神社文書 12巻
附: 宗像神社記録5巻、1冊、宗像社家文書惣目録1冊など、宗像神社の歴史や運営に関する貴重な資料群です。
色定法師一筆一切経 4342巻
この経典は、1187年から1227年にかけて書かれたもので、宗像市田島の興聖寺所有、宗像大社管理です。
滑石製経筒 仁平4年銘
滑石で作られた経筒で、仁平4年(1154年)の銘があり、宗像市稲元区所有、宗像大社管理となっています。
宗像神社境内
宗像大社の境内全体が国指定の史跡として認められています。この神聖な空間は、長い歴史と伝統を背景にしており、訪れる人々に深い感銘を与えます。
宗像神社中津宮本殿
中津宮本殿は、福岡県指定有形文化財に指定されています。神社建築の貴重な遺構として、大切に保護されています。
日本海海戦で活躍した戦艦三笠の羅針儀
この羅針儀は、日露戦争時の日本海海戦で活躍した戦艦「三笠」のもので、歴史的価値が高いです。
明応8年(1499年)に鐘岬沖で浮上した翁面
この翁面は、明応8年に鐘岬沖で浮上したもので、古代の儀式や祭礼に使用されたとされています。
宗像大社では年間を通じてさまざまな神事・祭事が行われます。以下に代表的なものを紹介します。
毎年1月1日から3日にかけて、新年を祝う神事が行われます。多くの参拝者が訪れ、新年の幸運を祈ります。
毎年4月1日から3日にかけて行われる春の祭りです。神社境内は華やかな雰囲気に包まれ、伝統的な儀式や奉納行事が行われます。
毎年7月の終わりに行われる大祓(おおはらえ)では、半年間の穢れを祓い、心身を清める儀式が行われます。
毎年旧暦の7月7日に筑前大島の中津宮末社で行われる神事です。牽牛社・織女社の前に短冊を付けた竹笹を立て、技芸の上達を祈ります。また、水に映る姿を見て男女の因縁を占う神事や、七夕揮毫大会も開催されます。
毎年10月1日から3日にかけて行われる祭りです。辺津宮本殿での儀式に先立ち、中津宮・沖津宮で神迎えの神事が行われ、漁船群の立てる色とりどりの旗や幟で海上神幸を行います。翁舞、風俗舞、流鏑馬、奉納相撲などが披露され、平安時代にまで遡る歴史的な行事として多くの人々に親しまれています。
毎年10月17日に行われる祭事で、茶道の文化を神前で奉納し、感謝を捧げます。
平成の天皇・皇后が宗像大社に親拝されたことを機に、毎年開催されるようになった新しい祭事です。五穀豊穣を祈願し、多くの参拝者が訪れます。
毎年11月1日から23日にかけて開催され、全国から多くの菊花が集まります。美しい菊の花々が境内を彩り、訪れる人々を楽しませます。
11月23日に行われる五穀豊穣を祝う祭りです。新米が神前に奉納され、感謝の意が表されます。
12月23日に行われ、天皇の誕生日を祝う祭事です。天皇の御健康と国家の繁栄を祈願します。
宗像大社へのアクセスは、公共交通機関と車の両方で可能です。福岡市内からのアクセスが便利で、都市部からも比較的短時間で訪れることができます。
JR九州の「東郷駅」からバスで約10分、「宗像大社前」バス停で下車し、徒歩すぐです。バスの本数は多くないので、事前に時刻表を確認しておくと良いでしょう。
九州自動車道の「若宮IC」から約15分、「古賀IC」からは約20分でアクセスできます。宗像大社には広い駐車場が完備されており、参拝客に便利です。
宗像大社は、古代からの歴史と文化を現代に伝える貴重な神社であり、日本のみならず、世界的にも重要な文化財として認識されています。その神聖な祭祀の場や、長い歴史を持つ社殿群、数々の文化財は、訪れる人々に深い感銘を与えます。宗像大社を訪れることで、日本の古代からの信仰と文化を体感することができるでしょう。
神宝館 9:00~16:30
年中無休
神宝館 拝観料
一般 800円
高校生・大学生 500円
小学生・中学生 400円
東郷駅からバスで20分