東寺の見どころ
五重塔 ― 日本一の高さを誇る国宝
東寺の五重塔は、高さ約54.8メートルを誇る日本一高い木造塔です。国宝に指定されており、京都を代表する景観の一つとなっています。
空海の発願によって826年に創建が始まりましたが、落雷や火災などで4度焼失しました。現在の塔は5代目にあたり、1644年に徳川家光の寄進によって再建されたものです。
通常、初重内部は非公開ですが、特別公開の際には内部に安置された仏像群を拝観できます。東西南北の各面には如来や菩薩などが配置され、密教の世界観を伝えています。
講堂 ― 密教の世界を表す立体曼荼羅
講堂は、金堂の北側に位置する重要文化財です。空海の時代に建立が始まり、839年に完成しました。1486年の火災で焼失しましたが、1491年に再建されています。
堂内には、大日如来を中心に21体の仏像が安置され、密教の世界観を立体的に表現する「立体曼荼羅」を構成しています。五智如来、五大菩薩、五大明王のほか、梵天・帝釈天や四天王などが配置され、仏像の表情や姿勢、配置から密教の教えを感じ取ることができます。
この立体曼荼羅の構成については、仁王経曼荼羅に基づくとする説や、空海が複数の密教経典をもとに独自に構想したとする説など、さまざまな研究が行われています。
金堂 ― 薬師如来を祀る国宝の本堂
金堂は東寺の中心となる本堂で、国宝に指定されています。現在の建物は、1603年に豊臣秀頼の寄進によって再建されました。片桐且元が工事の奉行を務め、和様と大仏様(天竺様)の建築様式を取り入れた壮大な建築となっています。
外観は二重に見えますが、実際には一重の建物に裳階(もこし)を付けた構造です。堂内には、本尊の薬師如来坐像と、その両脇に日光菩薩像・月光菩薩像が安置されています。台座の下には十二神将像も配置されています。
金堂の建築は、豊臣秀吉が造営した方広寺の大仏殿を模したものとも伝えられています。堂外から仏像を拝観するための観相窓も設けられていますが、窓の位置と薬師如来の顔の高さが合っていないことから、建物の当初の構想についても関心が寄せられています。
大師堂(御影堂)― 弘法大師信仰の中心
大師堂は、弘法大師・空海を祀る国宝の建物で、「御影堂(みえいどう)」とも呼ばれています。空海が暮らした西院に位置し、東寺の信仰を象徴する場所です。
堂内には弘法大師坐像や不動明王坐像が安置されています。毎朝6時には「生身供(しょうじんく)」という儀式が行われ、今も空海が生きているかのように食事を供える伝統が受け継がれています。
東寺の歴史
平安京の守護寺としての創建
東寺は、平安京と国家を守護する寺院として創建されました。平安京の正門にあたる羅城門の東西には、東寺と西寺を建立する計画があり、都を守るとともに国家鎮護の役割を担っていました。
東寺の記録書『東宝記』によると、796年に藤原伊勢人が造寺長官となって建立したとされています。ただし、藤原伊勢人については史料が限られており、その実在には疑問も指摘されています。東寺では796年を創建の年として伝えています。
空海による真言密教の拠点化
823年、嵯峨天皇は東寺を弘法大師・空海に下賜しました。これを機に、東寺は真言密教の根本道場として発展し、国家鎮護の官寺であると同時に、密教の中心的な寺院となりました。
平安時代後期には一時衰退しましたが、鎌倉時代以降、弘法大師信仰の広がりとともに、皇族から庶民まで幅広い人々の信仰を集めるようになりました。
後白河法皇の皇女・宣陽門院は空海に深く帰依し、東寺に多くの荘園を寄進したと伝えられています。また、空海に毎朝食事を供える「生身供」や、毎月21日に供養を行う「御影供(みえく)」も、東寺の信仰を象徴する行事として受け継がれてきました。
戦乱による焼失と復興
東寺は後宇多天皇、後醍醐天皇、足利尊氏など、歴代の権力者から援助を受けながら発展しました。しかし、1486年の土一揆による火災で、金堂・講堂・南大門などの主要な堂塔が焼失しました。
講堂は1491年に再建され、金堂は1603年に豊臣秀頼の寄進によって再建されました。五重塔も1644年に徳川家光の寄進によって再建され、現在までその姿を伝えています。
近代以降の東寺
1868年には東大門から出火し、一部が焼失しましたが、その後の復興によって境内が整備されました。1895年には、三十三間堂の西大門が東寺の南大門として移築されたとされています。
創建当時の建物は現存していませんが、南大門・金堂・講堂・食堂が南北一直線に並ぶ伽藍配置や建物の規模には、平安時代以来の寺院構成が受け継がれています。
境内の主な建造物と見どころ
東大門(重要文化財)
東大門は1198年に再建され、1605年に大規模な改修が行われました。新田義貞の攻撃を受けた足利尊氏が、この門を閉じて難を逃れたという故事から、「不開門(あかずのもん)」とも呼ばれています。
宝蔵(重要文化財)
宝蔵は、平安時代後期に建てられた校倉造の倉庫です。東寺に現存する最古の建築物とされ、古い建築技術を今に伝えています。床板には、かつて金堂や羅城門の扉が使われていた可能性があるともいわれています。
食堂(じきどう)
食堂は、かつて講堂の北側に位置していた観音堂を起源とする建物です。初代の建物は9世紀末から10世紀初めに建立されたと考えられています。1930年の火災で焼失しましたが、1933年に再建されました。
堂内には明珍恒男作の十一面観音像が安置され、洛陽三十三所観音霊場の第23番札所となっています。また、高さ3メートルを超える四天王立像も見どころの一つです。
夜叉神堂
夜叉神堂は、雄夜叉と雌夜叉を祀る東西二つの小堂です。雄夜叉は文殊菩薩、雌夜叉は虚空蔵菩薩を本地仏とすると伝えられています。
北大門(重要文化財)
東寺の北側に位置する門で、落ち着いた佇まいが印象的です。境内を巡りながら、東寺に受け継がれてきた歴史的な建築を鑑賞できます。
宝物館
1965年に開館した宝物館では、春と秋の特別展を中心に、東寺に伝わる貴重な寺宝が公開されます。仏教美術や歴史資料を通して、東寺の豊かな文化遺産に触れることができます。
弁天堂
弁天堂には、音楽や技芸、財産などを司る弁才天が祀られています。
庭園「澄心苑」
澄心苑は、近代の名作庭師として知られる七代目小川治兵衛(植治)が手がけた庭園です。境内の建築や自然と調和した庭の景観を楽しめます。
蓮花門(国宝)
本坊の西側に位置する蓮花門は、鎌倉時代に再建された八脚門です。空海が最後に京都を離れた際に通った門と伝えられ、東寺の歴史を物語る重要な建造物となっています。
灌頂院(重要文化財)
境内の南西隅にある灌頂院は、密教の重要な儀式である「伝法灌頂」や「後七日御修法」が行われる特別な堂宇です。東寺が真言密教の中心寺院として果たしてきた役割を今に伝えています。
東寺の庭園と四季の風景
瓢箪池
瓢箪池は、五重塔を背景にした景色を楽しめる人気の撮影スポットです。塔の姿が水面に映る光景は美しく、春には桜、秋には紅葉とともに、季節ごとに異なる風情を見せてくれます。
蓮池
夏には蓮の花が咲き、境内に静かで涼やかな雰囲気を添えます。仏教とゆかりの深い蓮の花を眺めながら、東寺ならではの落ち着いた時間を過ごせます。
東寺に伝わる国宝・重要文化財
東寺には、建造物をはじめ、絵画、彫刻、工芸品、書跡、典籍、古文書など、多岐にわたる文化財が伝えられています。長い歴史の中で育まれた仏教美術や建築技術を知るうえで、非常に貴重な寺院です。
主な国宝の建造物
国宝に指定されている建造物には、金堂、五重塔、大師堂(御影堂)、蓮花門、観智院客殿があります。
絵画
絹本著色真言七祖像は、真言宗の祖師7人を描いた肖像画です。7幅のうち5幅は空海が唐から持ち帰ったものとされ、唐時代の貴重な遺品として知られています。
絹本著色五大尊像は、宮中で正月に行われた「後七日御修法」の際、道場に掛けられた仏画で、平安時代後期の作品とされています。
絹本著色両界曼荼羅は「西院曼荼羅」とも呼ばれ、平安時代初期に制作された著名な曼荼羅です。鮮やかな色彩や、インド風の表現を取り入れた仏の姿が特徴です。
絹本著色十二天像 六曲屏風一双は、鎌倉時代に宅磨派によって制作された作品です。
彫刻
講堂には、国宝の木造五大菩薩坐像や木造五大明王像が安置されています。密教の教えを立体的に表現する仏像群として、東寺を代表する文化財です。
大師堂には、鎌倉時代の仏師・康勝の作とされる木造弘法大師坐像が安置されています。
工芸品
東寺には、空海が唐から持ち帰ったと伝えられる密教法具が残されています。金銅金剛盤、金銅五鈷鈴、金銅五鈷杵などは、密教儀式に用いられた工芸品です。
このほか、空海が請来したとされる「犍陀穀糸袈裟・横被」や、平安時代初期の漆工芸品「海賦蒔絵袈裟箱」も伝えられています。
書跡・典籍・古文書
弘法大師筆尺牘(風信帖)は、空海自筆の手紙3通を巻物にした書跡です。日本の書道史において重要な作品として知られています。
弘法大師請来目録は、空海が唐から持ち帰った品々を記録した目録で、最澄が筆写したものとされています。
主な重要文化財
建造物では講堂、慶賀門、東大門、南大門、北大門、北総門、宝蔵、灌頂院とその門などが重要文化財に指定されています。
絵画には、平安時代の仏画である「絹本著色十一面観音像」や、弘法大師の生涯を絵と文章で描いた12巻の「紙本著色弘法大師行状絵詞」があります。
彫刻では、金堂の本尊である木造薬師如来及両脇侍像や、講堂に安置される木造大日如来坐像などが知られています。また、仏舎利を納める「金銅舎利塔」などの工芸品も伝えられています。
東寺の魅力 ― 四季の景観と特別公開
春と秋のライトアップ
春と秋には、境内のライトアップが行われることがあります。特に紅葉の季節には、色づいた木々と五重塔が光に照らされ、昼間とは異なる幻想的な景観を楽しめます。
弘法市 ― 毎月21日の縁日
毎月21日には、弘法大師の命日にちなむ縁日「弘法市(弘法さん)」が境内で開かれます。骨董品や仏具、工芸品などを扱う露店が並び、参拝者や観光客で賑わいます。古道具や思いがけない品との出会いを楽しめる、東寺ならではの行事です。
特別公開
春や秋の観光シーズンには、五重塔の初重内部などが特別公開されることがあります。また、観智院をはじめ、通常は公開されていない場所が期間限定で公開される場合もあります。公開内容や日程は時期によって異なるため、訪問前に確認すると安心です。
主な年中行事
東寺では、年間を通じてさまざまな法要や行事が行われます。主な行事には、1月1日の修正会、2月3日の節分会、3月21日の弘法大師御影供、12月21日の終い弘法があります。
東寺へのアクセス
東寺は京都駅の南西に位置し、電車や市バスで訪れやすい寺院です。
- JR京都駅から徒歩約15分
- 近鉄東寺駅から徒歩約5~10分
- 市バス「東寺東門前」停留所から徒歩すぐ
京都を代表する歴史的寺院である東寺は、日本一高い五重塔をはじめ、密教彫刻の傑作や貴重な文化財、四季折々の庭園風景など、見どころが豊富です。弘法大師・空海への信仰が今も息づく境内を巡りながら、京都の歴史と仏教文化に触れてみてはいかがでしょうか。